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東京地方裁判所 平成4年(ワ)21188号 判決 1998年1月30日

甲事件、乙事件、丁事件及び戊事件各原告並びに丙事件被告

東京医療生活協同組合

右代表者理事

油原榮

右訴訟代理人弁護士

有賀信男

長谷川幸雄

甲事件及び乙事件各被告並びに丙事件原告

秋月昭磨

甲事件及び乙事件各被告並びに丙事件原告

秋月わぐり

乙事件被告及び丙事件原告

井上庸一

丁事件被告

山﨑公一

戊事件被告

安部昭子

右秋月昭麿(ママ)、秋月わぐり、山﨑公一及び安部昭子各訴訟代理人弁護士

井上庸一

右秋月昭麿(ママ)、秋月わぐり、井上庸一、山﨑公一及び安部昭子各訴訟代理人弁護士

冨永敏文

中西義徳

主文

一  甲事件被告秋月昭磨及び同秋月わぐりは、甲事件原告(東京医療生活協同組合)に対し、各自金一四〇万円及び内金二〇万円に対する平成六年一月一三日から、内金八〇万円に対する平成七年四月二二日から、及び内金四〇万円に対する平成七年五月二六日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  甲事件被告秋月昭磨、同秋月わぐり、丁事件被告山﨑公一及び戊事件被告安部昭子は、甲事件、丁事件及び戊事件各原告(東京医療生活協同組合)に対し、各自金一二〇万円及びこれに対する平成六年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件被告秋月昭磨、同秋月わぐり及び戊事件被告安部昭子は、甲事件及び戊事件各原告(東京医療生活協同組合)に対し、各自金二〇万円及びこれに対する平成六年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  乙事件被告秋月昭磨、同秋月わぐり及び同井上庸一は、乙事件原告(東京医療生活協同組合)に対し、各自金三〇万円及びこれに対する平成五年二月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  甲事件、乙事件、丁事件及び戊事件各原告(東京医療生活協同組合)の甲事件及び乙事件各被告秋月昭磨、同秋月わぐり、丁事件被告山﨑公一、戊事件被告安部昭子並びに乙事件被告井上庸一に対するその余の請求を棄却する。

六  丙事件原告秋月昭磨、同秋月わぐり及び同井上庸一の丙事件被告(東京医療生活協同組合)に対する請求をいずれも棄却する。

七  訴訟費用は、甲事件、乙事件、丙事件、丁事件及び戊事件を通じ、これを四五分し、その一八を甲事件、乙事件、丁事件及び戊事件各原告並びに丙事件被告(東京医療生活協同組合)の負担とし、その七を甲事件及び乙事件各被告並びに丙事件原告秋月昭磨、同秋月わぐり、丁事件被告山﨑公一及び戊事件被告安部昭子の連帯負担とし、その一二を甲事件及び乙事件各被告並びに丙事件原告秋月昭磨、同秋月わぐり及び乙事件被告及び丙事件原告井上庸一の連帯負担とし、その八を甲事件及び乙事件各被告並びに丙事件原告秋月昭磨及び同秋月わぐりの連帯負担とする。

事実及び理由

甲事件、乙事件、丁事件及び戊事件各原告並びに丙事件被告(東京医療生活協同組合)を以下「原告」といい、甲事件及び乙事件各被告並びに丙事件原告秋月昭磨を以下「被告昭磨」といい、甲事件及び乙事件各被告並びに丙事件原告秋月わぐりを以下「被告わぐり」といい、乙事件被告及び丙事件原告井上庸一を以下「被告井上」といい、丁事件被告山﨑公一を以下「被告山﨑」といい、戊事件被告安部昭子を以下「被告安部」という。なお、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部を略称するときは、「被告昭磨外三名」という。

第一当事者の求めた裁判<略>

第二事案の概要<略>

第三当事者の主張<略>

第四争点

一  甲事件、丁事件及び戊事件

1  濫訴か否か(本案前の主張)

本件訴訟は、原告の現執行部が、原告又は中野総合病院内における地位の延命を図る目的から、理由が虚偽であり、権利救済の実益がないにもかかわらず提起したものであり、いわゆる濫訴であって、不適法か。

2  業務妨害の有無(請求原因事実)

被告昭磨外三名らが、被告わぐりに対する懲戒解雇を撤回させる目的で、原告の経営する中野総合病院付近等において、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」等と書いたゼッケンを着用し、旗を立て、ハンドスピーカーを使用し、シュプレヒコールを繰り返して解雇撤回を要求し、ビラを配布した等の行為(時期によって行為者、行為の態様は異なる。)は、これによって、原告の業務の遂行を妨害したものであるか否か。

3  右各行為によって原告の受けた損害の有無及び額(請求原因事実)

4  正当行為か否か(抗弁1)

原告には、いったんは被告わぐりに対して職業病を発症させた責任を認め、その被害回復を約束しておきながら、池澤康郎医師の虚偽の診断を根拠に、職業病の責任回避を図り、長年にわたり解決のための交渉を拒絶し続けた違法があり、被告昭磨外三名らは右違法を是正させるために正当な行為を行ってきたに過ぎないものであり、表現の自由の範囲内の行為であり、正当行為であるといえるか否か。

5  過失相殺の可否(抗弁2)

被告昭磨外三名は、右のとおり、原告が責任を履行しようとしないためにその履行を求めて前記の各行為を行ったものであり、この事情は原告の損害額の算定に当たってしんしゃくすべきか否か。

6  弁済済みか否か(抗弁3)

(一) 原告が、請求の原因5ないし11の被告昭磨及び被告わぐりの行為が仮処分に違反した行為であるとして執行文付与の訴えを提起し、認容判決により、右各事実ごとに金二〇万円の支払を命ずる執行文の付与された債務名義を有しており、これに基づいて動産執行を申し立て、相当額の金員の支払を受けたことによって、本件損害賠償請求は、実質的に二重請求となるか否か。

(二) 原告が、請求の原因12ないし20及び同22ないし24の被告昭磨及び被告わぐりの行為が仮処分に違反した行為であるとして執行文付与の訴えを提起し、認容判決により、右各事実ごとに金20万円の支払を命ずる執行文の付与された債務名義を得て、被告昭磨及び被告わぐりから、合計一二〇万円の支払を受けたことによって、本件損害賠償請求についても損害額の弁済がされたことになるといえるか否か。

二  乙事件

1  本件答弁書の請求の原因1掲記の主張には原告の名誉を毀損する部分があるか否か。

2  右主張と、甲事件との関連性、必要性、相当性の有無

3  損害の有無及び額

4  本件答弁書の請求の原因1掲記の主張は、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出た場合に当たり、かつ、摘示された事実は真実であるか。

5  本件答弁書の陳述は、弁護士としての正当業務行為であり、違法性を有しないといえるか。

三  丙事件

1  原告の乙事件の提起は不当訴訟であるか否か。

2  損害の有無及び額

第五甲事件、丁事件及び戊事件についての判断

一  被告昭磨外三名の主張1(濫訴であることを理由とする本件訴訟の不適法性)について

被告昭磨外三名は、本件訴訟が濫訴に当たると主張し、その根拠として、まず、原告が既に本件間接強制仮処分決定を受けていることを挙げるが、仮処分における被保全権利は、債務者において訴訟に関係なく任意にその義務を履行し、又はその存在が本案訴訟において終局的に確定され、これに基づく履行が完了して始めて法律上実現されたものというべきであり、いわゆる満足的仮処分の執行自体によって被保全権利が実現されたと同様の状態が事実上達成されているとしても、それはあくまでも仮のものに過ぎないのであるから、この仮の履行状態の実現は、仮処分執行後に生じた被保全権利の目的物の滅失等被保全権利に関して生じた事実状態の変動を別にすれば、本案訴訟においてしんしゃくされるべき筋合いのものではない(最高裁昭和五四年四月一七日第三小法廷判決民集三三巻三号三六六頁)。もっとも、原告が被告昭磨及び被告わぐりを被告として提起した土地建物立入禁止等請求訴訟(平成五年(ワ)第六六八一号)について、東京地方裁判所が平成六年八月三〇日に言い渡した判決が、右仮処分の本案訴訟に当たるか否かが問題となるが、後述するとおり(七参照)、本案訴訟に当たらないと解される。したがって、原告が既に本件間接強制仮処分決定を受けていることは、本件訴訟が濫訴に当たると解する根拠とはならない。

被告昭磨外三名は、次に、被告昭磨及び被告わぐりが完全な無資力者であり、原告が本件訴訟で勝訴判決を受けても実質的な権利実現の実益が全くないことを根拠として主張するが、被告昭磨及び被告わぐりが完全な無資力者であるとしても、被告昭磨及び被告わぐりに対し訴訟手続によって権利義務の公権的確定を行うことを否定する理由はないから、被告昭磨外三名の右主張事実も、濫訴に当たると解すべき根拠とはならない。

さらに、原告に被告昭磨外三名に対する請求権があるか否かの判断は、本案において判断すべきことであるから、理由が虚偽であるとすれば訴えの提起が不法行為に当たり得ることは別として、理由が虚偽であることは、本件訴訟が濫訴に当たることの根拠とはならない。

そうすると、被告昭磨外三名の主張1は、専ら、原告の現執行部が原告又は中野総合病院内における地位の延命を図る目的で本件訴訟に提起したものであることを根拠とすることになるが、右に述べたとおり、本件訴訟の提起・追行が原告の正当な権利行使であることを否定すべき客観的な理由を見出しがたいことからすれば、仮に、原告の現執行部が右の目的で本件訴訟を提起したものであるとしても、そのような動機によって本件訴訟の適法性や請求の当否が左右されるものではないというべきである。

よって、被告昭磨外三名の主張1は理由がない。

二  業務の妨害を理由とする不法行為による損害賠償請求について

業務とは、社会生活上、反復継続して行われる事務又は事業をいう。業務を遂行する(ここでいう業務の遂行は、事業目的たる行為自体の執行だけでなく、事業目的たる行為の執行のために必要な行為を行うことも含む。)には、その基盤、原動力として、動産、不動産、知的財産権、債権、債務等を有機的に結合した財産の集合体が必要である。事業主の名誉、信用(事業を営むことによって形成される名誉、信用も含む。)もその一部に含まれる。右のような業務の基盤、原動力としての財産の集合体と業務の遂行とは区別することが可能であり、また、相当である。これを事業主の名誉、信用についていうならば、事業主の名誉、信用を毀損すれば、業務の遂行にも支障を来し、逆に、業務の遂行を妨害することによって事業主の名誉、信用まで傷つけることがある関係にあり、その意味で、事業主の名誉、信用と業務の遂行とは密接な関係があるが、両者は同一のものではないから、区別して検討する必要がある。業務に関し侵害行為がされた場合に、その法的救済を検討するに当たっても、違法性の判断は、被侵害利益の性質と侵害行為の態様との相関関係において判断するのが相当であるから、当該侵害行為の対象、態様から見て、右の事業主の名誉、信用と業務の遂行とのうち、どちらに対する、どのような侵害行為なのかを明確にし、それぞれに応じて検討する必要がある。

原告の業務の遂行の妨害についていうならば、業務の遂行に当たる者に直接実力を加えてその行動を妨げ、あるいは暴言を吐いたりシュプレヒコールを行ったりして、業務の遂行を事実上不能ないし困難に至らしめたり、業務の遂行上支障となる行為のほか、ハンドスピーカーの使用、シュプレヒコールにより大きな音声を出して平穏、静謐を必要とする患者の安静を害し、不快感を与えることによって医療業務の遂行に支障を来す行為も、原告の業務の遂行を妨害する行為であるということができる。前者については、前記(第二、一、3)雇用関係不存在確認請求事件等(昭和五八年(ワ)第八〇二九号、同年(ワ)第一〇四二九号)についての判決が、被告わぐりらが突然中野総合病院の事務棟に入り込み、同所で執務中の総務課長の机を取り囲み、交渉するよう要求して同人に対して約二時間にわたって怒声を発したり、原告の理事会にも押しかけ、組合長の制止及び退去要求に従わず、交渉を要求して暴言を吐き、シュプレヒコールを行って理事会の進行を妨害したり、院長室に突然入り込み、業務の打合せをしていた院長の退去要請に従わず、院長を取り囲んで、交渉するよう要求し、院長が院長室から出ようとするのを妨害するなどして、約四時間にわたって院長室にとどまって院長の業務の遂行を阻害したり、中野総合病院外科外来前で診療に行く途中の副院長を取り囲み、話し合いを執ように要求して容易に立ち去らず、副院長の診療を妨害したことを認定しているが、このような行為が該当する。また、前記(第二、一、4(九))土地建物立入禁止等請求事件(平成五年(ワ)第六六八一号)についての平成六年八月三〇日の判決は、被告昭磨及び被告わぐりがシュプレヒコールやハンドスピーカーで「解雇撤回」、「理事会は団交をせよ」、「職業病の責任を取れ」などと連呼したりした行為により、中野総合病院の各科外来診療において問診、診察の聴取が困難になる、心電図・内視鏡検査が正確にできない、重症腎不全の患者その他の重症患者の安静を害する、入院患者、妊産婦の安静を害する、外来患者も不快感を有するという事態が生じ、入院患者、通院患者、医師、看護婦その他の職員は著しい迷惑を受けたことを認定しているが、これらの行為は、前記の原告の業務の遂行の妨害の二つの態様に当たるものである。

これに対し、ハンドスピーカーの使用、シュプレヒコール等により、原告の業務の遂行に当たる者の業務の遂行を不能ないし困難に至らしめたり、平穏、静謐を必要とする患者の安静を害し、不快感を与えたりする行為のいずれにも当たらないような宣伝活動の行為については、原告の業務の遂行の妨害行為としてとらえるのではなく、原告の名誉、信用に対する侵害の有無という観点からとらえるのが相当である。

本件訴訟は、業務の妨害を理由とする不法行為による損害賠償請求であるから、被告昭磨外三名の行為によって原告の業務の遂行が妨害されたといえるか否かが争点となるのであり、業務の遂行の主体である原告の名誉、信用が侵害されたか否かについては判断の限りではない。なお、前記(第二、一、4(九))土地建物立入禁止等請求事件(平成五年(ワ)第六六八一号)についての平成六年八月三〇日の判決及び立入禁止等請求事件(平成五年(ワ)第一八一八五号)についての平成七年九月一一日の判決は、中野総合病院の敷地及び建物の所有権並びに医療業務及びこれに関する業務を円滑に行う権利(憲法一三条、二二条、二九条)に基づく侵害行為の差止請求を肯定しているが、その趣旨は、右に述べた意味での業務の遂行を不法に妨害する行為を排除し、妨害のおそれのあるときにこれを予防するための差止請求と、人格権としての名誉権に基づく原告の名誉に対する侵害行為の差止請求とを肯定することにあり、これらを包括する趣旨で、中野総合病院の敷地及び建物の所有権並びに医療業務及びこれに関する業務を円滑に行う権利に基づく侵害行為の差止請求と表現したものであると解するのが相当である。

三  街頭宣伝活動と不法行為による損害賠償責任

1  民主主義社会においては、国民が言論活動によって政治的意思決定に参加することを保障することが必要であり、表現の自由の重要性はまずこの点に由来するが、表現の自由によって保障されるべき対象は政治的意見に限られるものではなく、個人が自由な言論活動を通じて自己の意見を表明することもまた保障されるものと解するのが相当である。このような保障があって初めて個人の人格と社会の十分な発展が可能になると考えられるからである。

2  街頭において、ビラを配布し、あるいはスピーカーを用いて自己の意見を宣伝する街頭宣伝活動は、当該行為が道路、広場等で行われるため、その態様の面から、通行人、利用者、周辺の居住者、営業者の有する自由、平穏に生活する利益等と衝突することが少なくなく、公共の福祉の観点から公法上の規制を受けるが、右のような街頭宣伝活動も表現の自由の行使の一態様であるということができる。しかし、それによって他人の権利、法的利益を違法に侵害するものであってはならないという、表現の自由に内在する制約を受けることは当然のことである。これを業務の遂行との関係でいうならば、スピーカーを用いて自己の意見を宣伝したり、シュプレヒコールを繰り返す等の街頭宣伝活動が、その形態、音声等によって物理的に、あるいは人間の心理に作用する等して、社会通念上不相当な程度にまで他人の業務の遂行に支障となるときには、不法行為による損害賠償責任を免れない。

3  本件では、原告は、被告昭磨外三名らの街頭宣伝活動によって原告の業務が妨害され、精神的損害を受けたと主張する。原告は、法人であって自然人ではないから、精神的損害の賠償を請求することはできないが、被告昭磨外三名らの街頭宣伝活動によって原告の業務の遂行上支障が生じたことを肯定できる場合には、業務妨害による無形の損害を肯定することができるものと解するのが相当であり、原告の右主張も、業務妨害による無形の損害を主張する趣旨であると解するのが相当である。なお、既に述べたように、原告は、信用、名誉の毀損を理由とする損害賠償を請求しているわけではないから、被告昭磨外三名らの行為によって原告の信用、名誉が毀損されたか否かは判断の限りではない。

そこで、以下においては、右の見地から、被告昭磨外三名らの街頭宣伝活動によって原告の業務の遂行が妨害されたか否かについて判断する。

四1  請求の原因1(一)の事実及び(二)の事実のうち、被告昭磨及び被告わぐりが、外約三〇名とともに、平成四年五月九日午後零時ころから一時ころの間、中野サンプラザ前路上付近において、ビラを配布し、ハンドスピーカーを使用して宣伝したことは、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、原告は、平成四年五月九日、中野サンプラザ一三階の会場において創立六〇周年記念式典を開催したこと、被告昭磨及び被告わぐりは、外約三〇名とともに、同日午後零時ころから一時ころの間、中野サンプラザ前路上付近において、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」等の記載のあるゼッケンを身に付け、右記念式典に出席するためやってきた理事、総代、職員、招待客その他の第三者にビラを配布し、ハンドスピーカーを使用して宣伝したこと、右記念式典は、予定どおり午後一時から格別混乱もなく執り行われたこと、被告昭磨は、被告わぐりの夫であり、被告わぐりに対する懲戒解雇を撤回させる目的で「闘う会」を組織し、その事務局員をしており、その中心メンバーとして右各行為についてもこれを主導したこと(第二、一に述べた経過に表われている被告昭磨の行動並びに弁論の全趣旨から、被告昭磨が「闘う会」を組織し、その中心メンバーとして、「闘う会」として行った各行為についてこれを主導したことを認めることができる。)、以上の事実を認めることができる。

右のとおり、創立六〇周年記念式典は中野サンプラザ一三階の会場において執り行われており、ハンドスピーカーを使用したとはいえ、被告昭磨及び被告わぐりらの声が右記念式典の進行に支障を来したものと認めることはできず、その他、出席者の入場が妨げられて混乱が生じたりして、右記念式典の行事の進行に支障を来したことについては、これを認めるに足りる証拠はない。

しかしながら、原告の創立六〇周年記念式典は、厚生省健康政策局看護課長、中野区区長、中野区区議会議長、日本生活協同組合連合会医療部事務局長、日本病院会常任理事・東京都支部支部長、中野区医師会会長、中野区歯科医師会副会長、中野区薬剤師会会長、東京医科歯科大学医学部教授等を来賓に迎え、祝辞を受けたほか、多数の外部者を招いて執り行われたものであり、外部関係者とともに原告の創立六〇周年を祝賀するとともに、地域病院としての協力関係の一層の強化に資することを目的とするものであつて(この事実は<証拠略>によりこれを認める。)、このような目的で創立六〇周年の記念式典を行うことも原告の業務に含まれるものと解するのが相当であるところ、被告昭磨及び被告わぐりらは、中野サンプラザ前路上付近において、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」等の記載のあるゼッケンを身に付け、右記念式典に出席するためやってきた理事、総代、職員、招待客等にビラを配布し、ハンドスピーカーを使用して宣伝したのであり、しかも、そのビラは、「闘う会」「患者会」の名義で、「創立六〇周年記念式典弾劾」「中野総合病院は直ちに話し合いに応じ一二年に及ぶ解雇争議を解決せよ!」との見出しの下に、「労働者の差別・使い捨て、暴力的解雇を書き加えた六〇年の歴史を評価することはできません。記念式典を徹底的に弾劾せざるを得ません。」、「解雇撤回を求める私達に対し、理事会は暴力的対応を続けています。第一に、闘いが労組内に波及するのをおそれ、売店の売り上げ金をごまかし、その金を使って労組を分裂させました(労働委員会が不当労働行為と認定。争議対策・労組対策の裏金が一千万円)。第二に、一部職員を使っての暴行です。現在迄、骨折三名を含め、加療日数二百日のケガ人が出ています。第三に、右翼暴力団『特別防衛保障』を常駐させています。」等の内容を記載したものであるから、(この事実は<証拠略>によりこれを認める。)、被告昭磨及び被告わぐりらの右行為によって原告の名誉が損なわれたか否かにはここでは立ち入らないが、原告の創立六〇周年記念式典の前記目的、意義が、被告昭磨及び被告わぐりらの右各行為によって一部損なわれることとなったことについては、これを否定することはできず、むしろ被告昭磨及び被告わぐりらも、そのことを企図して原告の創立六〇周年記念式典の機会に右行為に及んだものということができる。

そうすると、原告の創立六〇周年記念式典の実施業務は、被告昭磨及び被告わぐりらの右各行為によって一部妨げられたものということができる。被告昭磨及び被告わぐりは、各自の行為がそれぞれ独立に不法行為の要件を備えるものというべきであるから、各自が右違法な加害行為と相当因果関係にある全損害について、その損害賠償責任を免れない。この業務妨害によって原告が受けた無形の損害は、二〇万円をもって相当と解する。

2(一)  請求の原因2(一)の事実及び(二)の事実のうち、被告昭磨及び被告わぐりが、外約二七名とともに、平成四年五月三〇日午後零時二三分ころから午後二時ころまでの間、ビラを配布し、ハンドスピーカーを使用して宣伝したこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、原告が、平成四年五月三〇日(土曜日)午後一時三八分から午後四時三分まで、「くみあい保険薬局会館」において第四三回通常総代会を開催したこと、被告昭磨及び被告わぐりは、外約二七名とともに、原告の総代会開催前である同日午後零時二三分ころから午後二時ころまでの間、「くみあい保険薬局会館」付近において、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」と記載した旗を立て、同様の記載のあるゼッケンを身に付け、継続的に相当の時間にわたり、ハンドスピーカーを使用して宣伝し、ビラを配布し、右薬局会館に入場しようとする原告の理事、総代らの進路上に立ち、交渉に応ずるよう求めたこと、ビラの内容は、「患者会」の名義で、「総代の皆さん一二年に及ぶ争議の解決の為に努力して下さい」との見出しの下に、「(前略)理事会は無責任な対応、暴力的対応をくり返しています。争議の最高責任者である池沢(ママ)院長は、解決努力を放棄し、逃亡を続けています。」、「職員の差別使い捨て、患者を無視しての営利主義一点張りに、患者から強い不満の声が寄せられています。」等を記載したものであること、右各行為の目的は、原告の理事、総代に働きかけ、被告わぐりに対する懲戒解雇に起因する紛争の解決に取り組ませようとすることにあったこと、被告昭磨及び被告わぐりらが右各行為を行った「くみあい保険薬局会館」付近の場所は、中野総合病院の病棟からも数メートルの近い距離にあったこと、被告昭磨は、「闘う会」の中心メンバーとして右各行為を主導したこと、以上の事実を認めることができる。なお、被告昭磨及び被告わぐりは、シュプレヒコールを延べ二分間行ったことを自認しているが、行った場所が証拠上明らかでなく、シュプレヒコールのために業務妨害が生じたことを認めるに足りる証拠はない。

被告昭磨及び被告わぐりらの右各行為によって、原告の理事、総代がある程度通行しにくくなったり、不愉快な思いをしたことは推認することができるが、進路を妨げられて総代会に出席できなかったことまでは認めるに足りないし、原告の理事、総代がなかなか進めなかったために総代会の開始時刻に遅れ、議事の進行に支障を来したり、ハンドスピーカーにより喧噪状態が生じ、そのため総代会の議事の進行に支障が生じたりして、原告の総代会の議事の進行が妨げられたことについては、これを認めるに足りる証拠がない。

しかしながら、ハンドスピーカーを使用して宣伝した場所は、中野総合病院の病棟からも数メートルの距離にあり、このような近い距離から被告昭磨及び被告わぐりらがハンドスピーカーを使用して宣伝したことによって、中野総合病院の入院患者に不快な思いをさせたほか、前記認定のような長年にわたる経緯があったことから、その診療に当たる医師、看護婦が、おのずと右音声をフォローし、相当程度注意を奪われ、その業務遂行に支障を来したことを推認することができる。原告の業務が医療業務であるという特質を踏まえ、右事実に基づいて考えると、被告昭磨及び被告わぐりらの右行為は、社会通念上不相当であり、原告の業務遂行を一部妨げた違法な行為であるといわざるを得ない。

弁論の全趣旨によれば、ハンドスピーカーを使用して宣伝したのは、被告わぐりであることが認められるが、被告昭磨は、「闘う会」の中心メンバーとして前記各行為を主導しており、このことに基づいて考えると、被告わぐりがハンドスピーカーを使用して宣伝したのは被告昭磨の指示に基づくものと推認することができる。民法七一九条一項前段の共同不法行為は、共同行為者各自の行為が客観的に関連し共同して違法に損害を加えた場合に成立するものと解するのが相当であるが、自ら独立に不法行為の要件を備える実行行為を行わなくても、行為者が実行行為を行う現場にともにいて、当該実行行為を指示する者は、これを教唆者としてとらえるのではなく、実行行為と客観的に関連し共同して違法に損害を加える共同行為者に当たる者と解するのが相当である。被告昭磨は、この意味での共同行為者に当たるから、被告わぐりと不真正連帯債務としての不法行為による損害賠償請求を免れない。

前記の業務妨害によって原告が受けた無形の損害は、二〇万円をもって相当と解する。

3  請求の原因3の事実のうち、被告昭磨及び被告わぐりが、外約二二名とともに、平成四年六月二七日午前八時五五分ころから午前一一時五〇分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、ビラを配布し、シュプレヒコールを行って情報宣伝行動を行ったことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)(なお、<証拠略>は、請求の原因3の事実の証拠ではなく、請求の原因4の事実に関する証拠である。)(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨及び被告わぐりが、外約二二名とともに、平成四年六月二七日午前八時五五分ころから午前一一時五〇分ころまでの間、中野総合病院前の区立桃園川公園の植込み部分に「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」と記載した旗を立て、中野総合病院の敷地境界線から五メートル程度、病棟から一〇メートル程度の距離にある同公園内入口付近において、同様の記載のあるゼッケンを身に付け、延べ約二分間にわたり、被告わぐりがハンドスピーカーを使用して呼びかけ、被告昭磨をはじめとする他の者らが被告わぐりの呼びかけに答えてシュプレヒコールを繰り返したほか、中野総合病院正面玄関前においてビラを配布したこと、ビラの内容は、「金で争議圧殺を企る 仮処分―間接強制を許さない!」との見出しの下に、「上告棄却糾弾」、「理事会は、(中略)金で闘争をやめさせ、責任のがれをしようというのです。池沢(ママ)院長は(中略)医者と患者の信頼関係が失われ(るおそれがあり)職員の志気、勤労意欲が減退すると自ら認めています。それを私達のせいにしていますがとんでもありません。」等を記載したものであること、中野総合病院の平日の外来診療受付時間は午前八時一五分から午前一一時三〇分、午後零時三〇分から午後三時三〇分であること、被告昭磨は、「闘う会」の中心メンバーとして右シュプレヒコールその他の行為を主導したこと、以上の事実を認めることができる。

右事実に基づいて考えると、中野総合病院に入ろうとする者は否応なしに前記の旗、ゼッケンを目にせざるを得ない状況を続けた上で、右程度の距離にある場所から、被告わぐりがハンドスピーカーを使用して呼びかけ、被告昭磨をはじめとする二〇名以上の者らが被告わぐりの呼びかけに答えてシュプレヒコールを繰り返したことによって、中野総合病院において診療に当たる医師、看護婦その他の職員が、おのずから右音声をフォローせざるを得なくなり、相当程度注意を奪われ、その業務遂行に支障を来したほか、患者にも不快な思いをさせたことを推認することができるから、被告昭磨及び被告わぐりらの右行為は、社会通念上不相当であり、原告の業務遂行を一部妨げた違法な行為であるといわざるを得ない。

次に、ビラの配布等の行為については、被告わぐりと原告との間には、当時雇用関係の有無をめぐって訴訟が係属していたが、被告わぐりの上告が棄却されたことにより、被告わぐりが原告との間で雇用契約上の権利を有する地位にあることを否定する判決が確定したものである。それにもかかわらず被告昭磨及び被告わぐりらがビラの配布等の行為を行ったことは、右紛争解決の手段として被告わぐりの権利主張とともに、原告の業務遂行に関して批判を内容とする街頭宣伝活動を行ったものであり、被告わぐりの権利主張を原告に認めさせる目的で原告に圧力をかける手段として利用することを企図していたものであって、専ら自己の利益を図る目的で行ったものと認めることができるし、さらに、相当な根拠に基づかずにされた行為であるというべきである。しかし、これらの行為によって原告の信用、名誉が侵害された可能性はあるが、原告の業務が妨げられたことについてはこれを認めるに足りる証拠がない(以下においては、ビラの配布等の行為による業務妨害の有無については、特に言及しない限り、ここで述べたことと同様であるから、一々同様の判示を繰り返すことは省略する。)。

被告昭磨及び被告わぐりは、前記の状況下で、前記のとおり被告わぐりにおいてハンドスピーカーを使用して呼びかけを行い、被告昭磨らがこれに答えてシュプレヒコールを繰り返したものであり、両者の行為は社会通念上一体のものと見るのが相当であるところ、これら一体の行為が原告の中野総合病院における業務を一部妨げたものであるから、共同行為者各自の行為が客観的に関連し共同して違法に一個の損害を加えた場合に当たるものというべきである。まず、被告わぐりは、自らハンドスピーカーを使用して呼びかけを行っており、独立に不法行為の要件を備えるところ、右に述べたとおり、その行為は、被告昭磨らが被告わぐりの叫びかけを受けてシュプレヒコールを繰り返した行為と一体のものと見るべきであるから、被告わぐりは、原告が、ハンドスピーカーによる呼びかけ及びシュプレヒコールによって受けた全損害についてこれを賠償すべき責任を負う。次に、被告昭磨は、「闘う会」の中心メンバーとして、率先して二〇名以上の者らとともに被告わぐりの呼びかけに答えてシュプレヒコールを繰り返したものである。声を合わせて一斉に叫ぶことによって大きな音量を出すというシュプレヒコールの特質に照らして考えると、被告昭磨の声とこれに合わせて出された他の者の声とがともに作用して結果を惹起したものと認められるから、シュプレヒコールに参加した者全員を共同行為者とし、各自の行為が客観的に関連し共同して違法に一個の損害を加えた場合にあたる。そして、被告わぐりによるハンドスピーカーを使用しての呼びかけ行為と、シュプレヒコールに参加した者全員を共同行為者とする客観的共同行為とが、客観的に関連し共同して違法に一個の損害を加えたものというべきである。なお、被告昭磨は、「闘う会」の中心メンバーとして、率先してシュプレヒコールを繰り返しており、自らシュプレヒコールを統率したものといえるから、この観点からすると、二〇名以上の者らによるシュプレヒコールによって原告の中野総合病院における業務に一部支障を来したことは、これを統率した被告昭磨自身の行為と見ることもできるが、シュプレヒコールの前記特質からすると、その参加者として客観的共同行為者としての責任を負うものと解するのが相当である。よって、被告昭磨は、原告が、ハンドスピーカーによる呼びかけ及びシュプレヒコールによって受けた全損害についてこれを賠償すべき責任を負う。

そうすると、被告昭磨及び被告わぐりは、不真正連帯債務として、不法行為による損害賠償責任を負うが、右各被告の共同不法行為によって原告が受けた無形の損害は、被告昭磨及び被告わぐりらの行為の続いた時間、態様等に照らし、二〇万円を下回らないものと認める。

4  請求の原因4の事実のうち、被告昭磨及び被告わぐりが、外約二〇名とともに、平成四年七月二〇日午前九時一九分ころから午前一一時五〇分までの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、ビラを配布し、ハンドスピーカーを使用して宣伝した事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨及び被告わぐりが、外約二〇名とともに、平成四年七月二〇日午前九時一九分ころから午前一一時五〇分までの間、中野総合病院前の区立桃園川公園内入口付近において、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」との記載のあるゼッケンを身に付け、ハンドスピーカーを使用し、延べ約二分間にわたりシュプレヒコールを繰り返したほか、中野総合病院正面玄関前において、原告の理事会は営利主義の下、職員を差別し、使い捨てている、解雇撤回要求に対し、暴力的に拒否している、上告棄却判決を糾弾する、理事会が申し立てた仮処分、間接強制を許さない等の趣旨を記載したビラを配布したこと、被告昭磨は、「闘う会」の中心メンバーとして右シュプレヒコールその他の行為を主導したこと、以上の事実を認めることができる。

右事実に基づいて考えると、3と同様、被告昭磨及び被告わぐりらの右各行為は、原告の中野総合病院における業務を一部妨げたものであり、被告昭磨及び被告わぐりは共同不法行為による不真正連帯債務としての損害賠償責任を免れない。この業務妨害によって原告が受けた無形の損害は、二〇万円を下回らないものと認める。

5  請求の原因5の事実のうち、被告昭磨及び被告わぐりが、外約三三名とともに、平成四年九月一七日午前八時四五分ころから午前一〇時ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」等と書いたゼッケンを着用し、ビラを配布したこと、シュプレヒコールを行ったこと、被告山﨑及び被告安部が右の時間帯に右の場所近辺にいたこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨及び被告わぐりが、外約三三名とともに、平成四年九月一七日午前八時四五分ころから午前一〇時ころまでの間、中野総合病院前の区立桃園川公園の植込み部分に「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」と記載した旗を立て、同公園内入口付近において、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」等と書いたゼッケンを着用し(被告昭磨、被告わぐり及び同山﨑はゼッケンを着用している。)、延べ約二分間にわたり、「理事会を話し合いに引きずり出すぞ」、「話合いで争議を解決するぞ」、「争議の責任をとらせるまで闘うぞ」、「仮処分間接強制攻撃をはねつけて闘うぞ」等とシュプレヒコールを繰り返し、中野総合病院正面玄関前において、間接強制仮処分決定を批判するビラを配布したこと、被告昭磨は、「闘う会」の中心メンバーとして右シュプレヒコールその他の行為を主導し、被告わぐりのほか、被告山﨑及び被告安部も右シュプレヒコールに参加したこと、平成四年八月二八日に本件間接強制仮処分決定がされており、被告昭麿(ママ)及び被告わぐりらは、この決定がハンドスピーカーの使用を禁じていることを受け、平成四年九月一七日にはハンドスピーカーを使用しなかったこと、以上の事実を認めることができる。

右事実に基づいて考えると、右の状況下で被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部らがシュプレヒコールを行ったことは、3に述べたことと同様の趣旨で、原告の中野総合病院における業務を一部妨げたものであり、シュプレヒコールに参加した者全員を共同行為者とし、各自の行為が客観的に関連し共同して違法に一個の損害を加えた場合に当たるから、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部は、客観的共同行為者として不真正連帯債務としての、不法行為による損害賠償責任を免れない。この業務妨害によって原告が受けた無形の損害は、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部らの行為の続いた時間、態様等に照らし、二〇万円をもって相当と認める。

6  請求の原因6の事実のうち、被告昭磨及び被告わぐりが、外約二八名とともに、平成四年一〇月一五日午前八時四五分ころから午前一〇時ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「闘う会」、「患者会」名義のビラを配布したこと、シュプレヒコールを行ったこと、被告山﨑及び被告安部が右の時間帯に右の場所近辺にいたこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨及び被告わぐりが、外約二八名とともに、平成四年一〇月一五日午前八時四五分ころから午前一〇時ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」等と書いたゼッケンを着用し、同様の記載のある旗を立てて、ハンドスピーカーは使用していなかったものの、延べ約二分間にわたり、「中野総合病院闘争に勝利するぞ」、「仮処分間接強制をはねのけて闘うぞ」等のシュプレヒコールを繰り返し、中野総合病院正面玄関前において、「あらゆる争議禁圧攻撃をはねのけ闘うぞ」等の記載のある「闘う会」、「患者会」名義のビラを配布したこと、被告昭磨は、「闘う会」の中心メンバーとして右シュプレヒコールその他の行為を主導し、被告わぐりのほか、被告山﨑及び被告安部も右シュプレヒコールに参加したこと、以上の事実を認めることができる。

右事実に基づいて考えると、右の状況下で被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部らがシュプレヒコールを行ったことは、5に述べたことと同様の趣旨で、原告の中野総合病院における業務を一部妨げたものであり、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部は、客観的共同行為者として、不真正連帯債務としての不法行為による損害賠償責任を免れない。この業務妨害によって原告が受けた無形の損害は、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部らの行為の続いた時間、態様等に照らし、二〇万円をもって相当と認める。

7  請求の原因7の事実のうち、被告昭磨及び被告わぐりが、外約二六名とともに、平成四年一一月九日午前八時五〇分ころから午前九時五五分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」等と書いたゼッケンを着用し、同様の記載のある旗を立てて、「仮処分間接強制粉砕」、「解雇撤回・職業病斗争勝利」、「中野総合病院斗争勝利」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と大書した横断幕を掲示し、患者らに「闘う会」及び「患者会」作成名義のビラを配布したこと、シュプレヒコールを行ったこと、被告山﨑及び被告安部が右の時間帯に右の場所近辺にいたこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨及び被告わぐりが、外約二六名とともに、平成四年一一月九日午前八時五〇分ころから午前九時五五分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」等と書いたゼッケンを着用し(被告昭磨、被告わぐり及び被告山﨑はゼッケンを着用している。)、同様の記載のある旗を立て、「仮処分間接強制粉砕」、「解雇撤回・職業病斗争勝利」、「中野総合病院斗争勝利」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と大書した横断幕を掲示し、延べ約二分間にわたり、「中野総合病院闘争に勝利するぞ」、「仮処分間接強制を糾弾するぞ」、「仮処分間接強制攻撃を許さず闘うぞ」等のシュプレヒコールを繰り返し、中野総合病院正面玄関前において、患者らに「闘う会」及び「患者会」作成名義のビラを配布したこと、被告昭磨は、「闘う会」の中心メンバーとして右シュプレヒコールその他の行為を主導し、被告わぐりのほか、被告山﨑及び被告安部も右シュプレヒコールに参加したこと、以上の事実を認めることができる。

右事実に基づいて考えると、右の状況下で被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部らがシュプレヒコールを行ったことは、5に述べたことと同様の趣旨で、原告の中野総合病院における業務を一部妨げたものであり、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部は、客観的共同行為者として、不真正連帯債務としての不法行為による損害賠償責任を免れない。この業務妨害によって原告が受けた無形の損害は、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部らの行為の続いた時間、態様等に照らし、二〇万円をもって相当と認める。

8  請求の原因8の事実のうち、被告昭磨及び被告わぐりが外約一四名とともに、平成四年一二月一九日午前八時四〇分ころから午前一〇時一〇分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園植込み部分に「仮処分間接強制粉砕」、「解雇撤回・職業病闘争勝利」、「中野総合病院闘争勝利」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と大書した横断幕を掲示し、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」等と記載されたゼッケンを着用し、「仮処分間接強制粉砕」等と書かれたプラカードを掲げ、シュプレヒコールを行ったこと、公園入口付近において、「闘う会」、「患者会」名義のビラを配布したこと、被告山﨑及び被告安部が右の時間帯に右の場所近辺にいたこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)(後記採用しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨及び被告わぐりが、外約一四名とともに、平成四年一二月一九日午前八時四〇分ころから午前一〇時一〇分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園植込み部分に「仮処分間接強制粉砕」、「解雇撤回・職業病斗争勝利」、「中野総合病院斗争勝利」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載した横断幕を掲示し、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」との記載のある旗を立て、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」等と記載されたゼッケンを着用し、「仮処分間接強制粉砕」等と書かれたプラカードを掲げ、右時間帯の開始後間もなくしてからと終了間際に各一分間、「中野総合病院闘争に勝利するぞ」、「間接強制を粉砕するぞ」、「間接強制を許さず闘うぞ」等のシュプレヒコールを行ったこと、右の者らは中野総合病院玄関付近の路上で、「闘う会」、「患者会」名義のビラを配布したこと、被告昭磨は、「闘う会」の中心メンバーとして右シュプレヒコールその他の行為を主導し、被告わぐりのほか、被告山﨑及び被告安部も右シュプレヒコールに参加したこと、以上の事実を認めることができる。なお、被告わぐりが、大久保通りに面している郵便局とガソリンスタンドとで挟まれた、大久保通りとT字形に交差している道路上で、郵便局の駐車場の側面に当たる場所において、中野総合病院方面に向けてハンドスピーカーを使用した事実は認められる(この認定に反する<証拠略>の記載は<証拠略>に照らし採用することができない。原告の平成七年九月一九日付け証拠説明書(二)は撮影場所、撮影地点が不明であるとしている。しかし、<証拠略>の写真を<証拠略>の写真と対比すると、大久保通りに面している郵便局とガソリンスタンドとで挟まれた、大久保通りとT字形に交差している道路上で、郵便局の駐車場の側面に当たる場所と認めることができる。)が、その位置は、中野総合病院から五〇メートル以上離れた場所であり、被告わぐりと中野総合病院との間には大久保通りが介在しているから、その音声が中野総合病院の病棟内の業務を妨げる程度のものであったと認めることはできない。

右事実に基づいて考えると、右の状況下で被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部らがシュプレヒコールを行ったことは、シュプレヒコールを行った時間自体は延べ二分間に過ぎないとはいえ、診療の時間帯に二度にわたって行われており、中野総合病院においては被告昭磨、被告わぐりらによってそれまで度々シュプレヒコールが繰り返され、宣伝活動が行われてきたことから、診療に当たる医師、看護婦その他の職員が、おのずから右音声をフォローせざるを得なくなり、相当程度注意を奪われ、その業務遂行に支障を来したほか、患者にも不快な思いをさせたことは否定できないから、原告の中野総合病院における業務を一部妨げたものということができ、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部は、5に述べたことと同様、客観的共同行為者として、不真正連帯債務としての不法行為による損害賠償責任を免れない。この業務妨害によって原告が受けた無形の損害は、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部らの行為の続いた時間、態様等に照らし、二〇万円をもって相当と認める。

9  請求の原因9の事実のうち、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部が、外三〇数名とともに、平成五年一月一八日午前八時五〇分ころから午前一〇時二〇分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、右8と同様のゼッケンを着用し、横断幕を張り付け、プラカードを掲げたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨及び被告わぐりが外約三〇名とともに、平成五年一月一八日午前八時五〇分ころから午前一〇時二〇分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」等と記載されたゼッケンを着用し(被告昭磨、被告わぐり及び同山﨑はゼッケンを着用している。)、同公園の植込み部分に「仮処分・間接強制粉砕」、「解雇撤回・職業病斗争勝利」、「中野総合病院斗争勝利」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載した横断幕及び「争議禁圧攻撃としての仮処分・間接強制を許さないぞ!」、「理事会は話し合いに応じ、直ちに争議を解決せよ!」と記載した横断幕を掲示し、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」との記載のある旗を立て、「仮処分間接強制粉砕」、「池澤院長は話し合いに応じろ」等と書かれたプラカードを掲げ、右時間帯の開始後間もなくしてからとその一時間後に各一分間、「中野総合病院闘争に勝利するぞ」、「間接強制を許さず闘うぞ」、「仮処分を粉砕するぞ」等のシュプレヒコールを繰り返し、中野総合病院玄関付近の路上で、患者らに「闘う会」及び「患者会」作成名義のビラを配布したこと、被告昭磨は、「闘う会」の中心メンバーとして右シュプレヒコールその他の行為を主導し、被告わぐりのほか、被告山﨑及び被告安部も右シュプレヒコールに参加したこと、以上の事実を認めることができる。

右事実に基づいて考えると、右の状況下で被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部らがシュプレヒコールを行ったことは、8に述べたことと同様の趣旨で、原告の中野総合病院における業務を一部妨げたものであり、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部は、客観的共同行為者として、不真正連帯債務としての不法行為による損害賠償責任を免れない。この業務妨害によって原告が受けた無形の損害は、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部らの行為の続いた時間、態様等に照らし、二〇万円をもって相当と認める。

10  請求の原因10の事実のうち、被告昭磨及び被告わぐりが外約二三名とともに、平成五年二月一五日午前八時四五分ころから午前一〇時五分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、前記8と同様に、ゼッケンを着用し、旗を立て、横断幕を掲示したこと、患者、職員等に対し、「間接強制をはじめとしたあらゆる弾圧をはねのけて闘おう」と記載し、原告を「居直り強盗もいいところ」等と表現した「闘う会」及び「患者会」作成名義のビラを配布したこと、被告山﨑及び被告安部が右の時間帯に右の場所近辺にいたこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨及び被告わぐりが外二三名とともに、平成五年二月一五日午前八時四五分ころから午前一〇時五分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」等と記載されたゼッケンを着用し(被告昭磨、被告わぐり及び被告山﨑はゼッケンを着用している。)、同公園の植込み部分に「仮処分・間接強制粉砕」、「解雇撤回・職業病斗争勝利」、「中野総合病院斗争勝利」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載した横断幕及び「争議禁圧攻撃としての仮処分・間接強制を許さないぞ!」、「理事会は話し合いに応じ、直ちに争議を解決せよ!」と記載した横断幕を掲示し、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」との記載のある旗を立て、午前八時五五分ころ及びその一時間後ころの二回にわたって各一分間、「理事会の争議責任を追及するぞ」、「池澤院長の責任を追及するぞ」、「池澤院長を話し合いに引きずり出すぞ」、「間接強制攻撃をはねのけて闘うぞ」、「闘う会は闘うぞ」、「患者会は闘うぞ」、「あらゆる弾圧をはねのけて闘うぞ」、「争議団の仲間とともに闘うぞ」等とシュプレヒコールを繰り返し、さらに、中野総合病院正面玄関前及び中野総合病院前路上において、患者、職員等に対し、「仮処分 間接強制をはじめとしたあらゆる弾圧をはねのけて闘おう」と記載し、原告を「居直り強盗もいいところ」等と表現した「闘う会」及び「患者会」作成名義のビラを配布したこと、被告昭磨は、「闘う会」の中心メンバーとして右シュプレヒコールその他の行為を主導し、被告わぐりのほか、被告山﨑及び被告安部も右シュプレヒコールに参加したこと、以上の事実を認めることができる。

右事実に基づいて考えると、右の状況下で被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部らがシュプレヒコールを行ったことは、8に述べたことと同様の趣旨で、原告の中野総合病院における業務を一部妨げたものであり、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部は、客観的共同行為者として、不真正連帯債務としての不法行為による損害賠償責任を免れない。この業務妨害によって原告が受けた無形の損害は、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部らの行為の続いた時間、態様等に照らし、二〇万円をもって相当と認める。

11  請求の原因11の事実のうち、被告昭磨及び被告わぐりが外約二四名とともに、平成五年三月一三日午前八時四五分ころから午前一〇時五〇分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、前記8と同様に、ゼッケンを着用し、横断幕を掲示し、プラカードを持ち、病院正面玄関前において、シュプレヒコールを行ったこと、患者らに対しビラを配布したこと、被告安部が右の時間帯に右の場所近辺にいたこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨及び被告わぐりが外約二四名とともに、平成五年三月一三日午前八時四五分ころから午前一〇時五〇分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」等と記載されたゼッケンを着用し、同公園の植込み部分に「仮処分・間接強制粉砕」、「解雇撤回・職業病斗争勝利」、「中野総合病院斗争勝利」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載した横断幕及び「争議禁圧攻撃としての仮処分・間接強制を許さないぞ!」、「理事会は話し合いに応じ、直ちに争議を解決せよ!」と記載した横断幕を掲示し、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」との記載のある旗を立て、午前八時五五分ころ及び午前一〇時二六分ころの二回にわたり各一分間、「中野総合病院闘争に勝利するぞ」、「仮処分を粉砕するぞ」、「間接強制を許さず闘うぞ」、「理事会の責任を追及するぞ」、「池澤院長の責任を追及するぞ」、「あらゆる弾圧をはねのけて闘うぞ」等とシュプレヒコールを繰り返し、さらに、中野総合病院正面玄関前及び中野総合病院前路上において、患者等に対し、「不況の名のもとでの労働者の使い捨てを許すな」「間接強制を乱発して労働者を弾圧する裁判所に抗議」と記載した「闘う会」及び「患者会」作成名義のビラを配布したこと、被告昭磨は、「闘う会」の中心メンバーとして右シュプレヒコールその他の行為を主導し、被告わぐりのほか、被告安部も右シュプレヒコールに参加したこと、以上の事実を認めることができる。

被告山﨑が被告昭磨、被告わぐり及び被告安部らとともに右各行為を行ったことについては、これを認めるに足りる証拠がない。

前記事実に基づいて考えると、前記状況下で被告昭磨、被告わぐり及び被告安部らがシュプレヒコールを行ったことは、8に述べたことと同様の趣旨で、原告の中野総合病院における業務を一部妨げたものであり、被告昭磨、被告わぐり及び被告安部は、客観的共同行為者として、不真正連帯債務としての不法行為による損害賠償責任を免れない。この業務妨害によって原告が受けた無形の損害は、被告昭磨、被告わぐり及び被告安部らの行為の続いた時間、態様等に照らし、二〇万円をもって相当と認める。

12  請求の原因12の事実のうち、被告昭磨及び被告わぐりが、外約二五名とともに、平成五年四月一七日午前八時五五分ころから午前一一時ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、旗を掲げ、中野総合病院正面玄関前付近の路上において患者等に対し、「闘う会」及び「患者会」作成名義の「再度の仮処分―間接強制不当決定弾劾!」との大見出し、「証拠・事実に基づかない不当決定」等の見出しを付けたビラを配布し、さらに、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用したこと、被告山﨑及び被告安部が右の時間帯に右の場所近辺にいたこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部が、外約二三名とともに、平成五年四月一七日午前八時五五分ころから午前一一時ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し、同公園の植込み部分に「団結 東京ふじせ企画労働組合」、「闘争勝利 全金本山労働組合」、「品川区臨時職員佐久間さん解雇撤回闘争支援共闘会議」、「中央公論社労働組合有志」「洋書センター労働組合」等と記載された旗五枚を掲示し、旗五本を立て、中野総合病院正面玄関前付近の路上において患者等に対し、「闘う会」及び「患者会」作成名義の「再度の仮処分―間接強制不当決定弾劾!」との大見出し、「証拠・事実に基づかない不当決定」、「労働者弾圧の先兵となった裁判所」、「裁判所に抗議の声」及び「話し合いなくして争議解決なし」の見出しを付けたビラを配布したこと、以上の事実を認めることができる。

しかしながら、右のゼッケンの着用、横断幕及び旗の掲示、ビラの配布によって原告の業務が妨げられたことについては、これを認めるに足りる証拠がないから、原告の右事実を理由とする不当行為による損害賠償請求は理由がない。

13  請求の原因13の事実のうち、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部が、外約六八名とともに、平成五年五月二九日午後零時四五分ころから午後二時二〇分ころまでの間、前記「くみあい保険薬局会館」付近にいたこと、当日、原告の第四四回通常総代会が開催されたこと、被告昭磨、被告わぐりらが「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し、植込みに旗を九本立てて横断幕一枚を張り、患者らに「患者会」、「闘う会」作成名義のビラを配布したこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、原告は、平成五年五月二九日(土曜日)午後一時三二分から午後二時五二分まで、「くみあい保険薬局会館」において第四四回通常総代会を開催したこと、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部は、外約六八名とともに、原告の総代会開催前から終了時ころまでに当たる同日午後零時四五分ころから午後二時二〇分ころまでの間、前記「くみあい保険薬局会館」付近の区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し、同公園の植込み部分に「仮処分・間接強制攻撃粉砕」、「理事会は話し合いに応じろ」と記載した横断幕を掲示し、「団結 東京ふじせ企画労働組合」等と記載された旗を立て、「中央公論社労働組合有志」「洋書センター労働組合」等と記載された旗を掲示し、右会館に入場しようとする原告の理事、総代らの進路近くに立ち、話合いに応ずるよう求め、これらの者に同道し、あるいは誘導する者との間で身体の若干の接触が生じたこと、被告わぐりは、断続的に相当の時間にわたり、ハンドスピーカーを使用して宣伝活動を行い、抗議文を読み上げたこと、しかし、右の演説等も原告の第四四回通常総代会が開始するころには終わり、被告昭磨、被告わぐりらは、外約七〇名とともに、「くみあい保険薬局会館」と大久保通りを隔てた中野郵便局駐車場前でシュプレヒコールを行い、解散したこと、以上の事実を認めることができる。

被告昭磨及び被告わぐりらが、「くみあい保険薬局会館」に入場しようとする原告の理事、総代らの進路近くに立って話合いに応ずるよう求めた等の行為によって、原告の役員、総代がある程度通行しにくくなったり、不愉快な思いをしたことは推認することができるが、進路を妨げられて総代会に出席できなかったことまでは認めるに足りないし、原告の役員、総代がなかなか進めなかったために総代会の開始時刻に遅れ、議事の進行に支障を来したり、ハンドスピーカーにより喧噪状態が生じ、そのため総代会の議事の進行に支障が生じたりして、原告の総代会の議事の進行が妨げられたことについては、これを認めるに足りる証拠がない。また、被告昭磨、被告わぐりらは、外約七〇名とともに、「くみあい保険薬局会館」と大久保通りを隔てた中野郵便局駐車場前でシュプレヒコールを行っており、シュプレヒコールに参加した者の人数からすると相当大きな叫び声となり、「くみあい保険薬局会館」との距離は一〇メートル程度であることがうかがわれるから、相当の交通量があるものと思われる大久保通りが介在しているとはいえ、シュプレヒコールの声が「くみあい保険薬局会館」において原告の総代会に出席している役員、総代の耳に届き、議事の進行上ある程度支障となった可能性は少なくないが、当日の総代会の進行状況、議事の進行上の支障については原告は何ら主張立証せず、結局、右シュプレヒコール等が原告の総代会の議事の進行を妨げる程度に至っていたことについては証明が不十分であるいわざるを得ず、(証拠略)の記載に照らしても、シュプレヒコールによって原告の総代会の議事の進行が妨げられたことを認めるに足りないというべきである。

しかしながら、被告わぐりがハンドスピーカーを使用して宣伝した場所は、中野総合病院の病棟からも数メートルの距離にあり、このような近い距離から被告昭磨及び被告わぐりらがハンドスピーカーを使用して宣伝したことによって、中野総合病院の入院患者に不快な思いをさせたほか、その診療に当たる医師、看護婦が、おのずと右音声をフォローし、相当程度注意を奪われ、その業務遂行に支障を来したことを推認することができる。原告の業務が医療業務であるという特質を踏まえ、右事実に基づいて考えると、被告わぐりの右行為は、社会通念上不相当であり、原告の業務遂行を一部妨げた違法な行為であるといわざるを得ない。2で述べたとおり、被告昭磨は、被告わぐりにおいてハンドスピーカーを使用して宣伝した実行行為と客観的に関連し共同して違法に損害を加えた共同行為者に当たるから、実行行為者である被告わぐりと不真正連帯債務としての不法行為による損害賠償責任を免れない。

前記の業務妨害によって原告が受けた無形の損害は、二〇万円をもって相当する。

被告山﨑及び被告安部が「くみあい保険薬局会館」付近にいたことは前記のとおりであり、被告山﨑については、被告わぐりがハンドスピーカーを使用して宣伝している際、そのすぐそばにいた(この事実は<証拠略>によりこれを認める。)が、これらの事実だけでは、被告山﨑及び被告安部が、被告わぐりにおいてハンドスピーカーを使用して宣伝した実行行為と客観的に関連し共同して違法に損害を加えた共同行為者に当たると認めるに足りず、被告山﨑及び被告安部に対する原告の請求は理由がない。

14  請求の原因14の事実のうち、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部が、平成五年六月三〇日午前九時五分ころから午前一〇時四五分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部は、外約二〇名とともに、平成五年六月三〇日午前九時五分ころから午前一〇時四五分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し、同公園植込みに旗四本を立て、中野総合病院正面玄関前付近の路上において患者等に対し、「闘う会」及び「患者会」作成名義の「東京地裁民事九部 三度不当な仮処分・間接強制決定」との見出しを付けたビラを配布したこと、被告昭磨及び被告わぐりらは、これに先立ち、「くみあい保険薬局会館」横の救急車両通路に入り、ゼッケンの着用等を行ったが、これは、当日雨が降っていたためであり、一時的に救急車両通路横の歩行者用通路上に荷物を置いたものの、暫くしてこれを持って区立桃園川公園入口付近に移動したこと、以上の事実を認めることができる。

被告昭磨及び被告わぐりらが、救急車両の通行を妨害する状況を作ったり、撤去を要求する職員の業務を妨害したことを認めるに足りる証拠はない。また、右のゼッケンの着用、旗の掲示及びビラの配布によって原告の業務が妨げられたことについても、これを認めるに足りる証拠がない。よって、原告の右事実を理由とする不法行為による損害賠償請求は理由がない。

15  請求の原因15の事実のうち、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部らが、平成五年九月一六日午前八時五〇分ころから午前一〇時三〇分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し、旗を立て、ビラを配布したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部が、外一七名とともに、平成五年九月一六日午前八時五〇分ころから午前一〇時三〇分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し(被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部はいずれもゼッケンを着用した。)、同公園植込みに「勝利 中野総合病院の職業病闘争を闘う会」「闘争勝利」等と記載された旗を立てたこと、中野総合病院正面玄関前において、被告昭磨が原告の総務課の職員に抗議文なるものを読み上げたこと、被告わぐりらは、中野総合病院正面玄関前付近の路上において患者等に対し、「闘う会」及び「患者会」作成名義の「九・一四反弾圧闘争で、争議圧殺の仮処分―間接強制を乱発する東京地裁民事九部弾劾の決議文採択」との見出しを付けたビラ及び「生活協同組合病院は営利目的の経営を法律で禁止されている」との見出しを付けたビラを配布したこと、以上の事実を認めることができる。

しかしながら、右のゼッケンの着用、旗の掲示、ビラの配布、抗議文なるものの読上げによって原告の業務が妨げられたことについては、これを認めるに足りる証拠がないから、原告の右事実を理由とする不法行為による損害賠償請求は理由がない。

16  請求の原因16の事実のうち、被告昭磨、被告わぐり及び同山﨑らが、平成五年一〇月一四日午前九時五分ころから午前一一時ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用したこと、被告昭磨、被告わぐりらがビラを配布したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨、被告わぐり及び同山﨑が、外一八名とともに、平成五年一〇月一四日午前九時五分ころから午前一一時ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を争う会」と記載されたゼッケンを着用し、同公園植込みに旗を四本立て、何人かの者が、中野総合病院正面玄関前付近の路上において、患者等に対し、「闘う会」及び「患者会」作成名義の「ますます深刻になる看護婦不足。そのしわよせは、看護婦、患者さんへ」との見出しの付けられたビラを配布したこと、以上の事実を認めることができる。

しかしながら、右のゼッケンの着用、旗の掲示、ビラの配布によって原告の業務が妨げられたことについては、これを認めるに足りる証拠がないから、原告の右事実を理由とする不法行為による損害賠償請求は理由がない。

17  請求の原因17の事実のうち、被告昭磨、被告わぐり及び被告安部らが、平成五年一一月一三日午前九時ころから午前一〇時四〇分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近におり、一部の者がビラを配布した事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨、被告わぐり及び被告安部らは、外一五名とともに、平成五年一一月一三日午前九時ころから午前一〇時四〇分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し(被告昭磨、被告わぐり及び被告安部はいずれもゼッケンを着用した。)、同公園植込みに「勝利するぞ中野総合病院の職業病闘争を闘う会」等と記載された旗を二本立て、一部の者が中野総合病院前の路上、中野総合病院正面玄関付近及び区立桃園川公園側において、患者等に対し、「闘う会」及び「患者会」作成名義の「深刻な看護婦不足。そのツケは患者と看護婦に」との見出しの付けられたビラを配布したこと、その後同公園内で集会を開いて解散したこと、以上の事実を認めることができる。

しかしながら、右のゼッケンの着用、旗の掲示、ビラの配布及び同公園内での集会によって原告の業務が妨げられたことについては、これを認めるに足りる証拠がないから、原告の右事実を理由とする不法行為による損害賠償請求は理由がない。

18  請求の原因18の事実のうち、被告昭磨、被告わぐり及び被告安部らが、平成五年一二月一四日午前八時五五分ころから午前一〇時二五分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し、同公園植込みに旗を立て、中野総合病院正面玄関付近において、患者らに「闘う会」及び「患者会」作成名簿のビラを配布したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨、被告わぐり及び被告安部らは、外一四名とともに、平成五年一二月一四日午前八時五五分ころから午前一〇時二五分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し、同公園植込みに「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」等と記載された旗を五本立て、一部の者が中野総合病院前の路上、中野総合病院正面玄関付近及び区立桃園川公園側において、患者等に対し、「闘う会」及び「患者会」作成名義の「病院食の患者負担化に反対します」との見出しの付けられたビラを配布したこと、その後同公園内で集会を開いて解散したこと、以上の事実を認めることができる。

しかしながら、右のゼッケンの着用、旗の掲示、ビラの配布及び同公園内での集会によって原告の業務が妨げられたことについては、これを認めるに足りる証拠がないから、原告の右事実を理由とする不法行為による損害賠償請求は理由がない。

19  請求の原因19の事実のうち、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部らが、平成六年一月一三日午前九時ころから午前一一時ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し、同公園植込みに旗を立て、中野総合病院正面玄関付近において、患者らに「闘う会」及び「患者会」作成名義のビラを配布したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部は、外約一五名とともに、平成六年一月一三日午前九時ころから午前一一時ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し(被告昭磨、被告わぐり及び被告安部はいずれもゼッケンを着用した。同山﨑についてはゼッケンを着用したことを認めるに足りる証拠がない。)、同公園植込みに「勝利するぞ 中野総合病院の職業病闘争を闘う会」等と記載された旗を六本立て、被告わぐりその他の者が中野総合病院前の路上、中野総合病院正面玄関付近及び区立桃園川公園側において、患者等に対し、「闘う会」及び「患者会」作成名義の「職業病は完全職場復帰した時が治ゆ」等の見出しを付けたビラを患者らに配布したこと、その後同公園内で集会を開いて解散したこと、以上の事実を認めることができる。

しかしながら、右のゼッケンの着用、旗の掲示、ビラの配布及び同公園内での集会によって原告の業務が妨げられたことについては、これを認めるに足りる証拠がないから、原告の右事実を理由とする不法行為による損害賠償請求は理由がない。

20  請求の原因20のうち、被告昭磨、被告わぐり及び被告安部らが、平成六年二月一九日午前八時五五分ころから午前一〇時三〇分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し、同公園植込みに「闘う会」、「勝利するぞ」と記載された旗を立て、中野総合病院正面玄関付近において、患者らに「闘う会」及び「患者会」作成名義のビラを配布したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨、被告わぐり及び被告安部らは、外一五名とともに、平成六年二月一九日午前八時五五分ころから午前一〇時三〇分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し(被告昭磨、被告わぐり及び被告安部はいずれもゼッケンを着用した。)、同公園植込みに「勝利するぞ 中野総合病院の職業病闘争を闘う会」等と記載された旗を六本立て、被告わぐりその他の者が、中野総合病院前の路上、中野総合病院正面玄関付近及び区立桃園川公園側において、患者等に対し、「闘う会」及び「患者会」作成名義の「診療報酬実質27%引上げ。患者の窓口負担増加」の見出しを付けたビラを患者らに配布したこと、その後同公園内で集会を開いて解散したこと、以上の事実を認めることができる。

しかしながら、右のゼッケンの着用、旗の掲示、ビラの配布及び同公園内での集会によって原告の業務が妨げられたことについては、これを認めるに足りる証拠がないから、原告の右事実を理由とする不法行為による損害賠償請求は理由がない。

21  請求の原因21(二)の事実のうち、被告昭磨、被告わぐり及び被告安部らが、平成六年三月二三日午前一一時三五分ころから午後零時四〇分ころまでの間、中野サンプラザ前広場においてビラを配布したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、平成六年三月二三日午前一〇時から「中野看護専門学校開設記念式典」が開催され、午後零時三〇分から祝宴が開催されたこと、原告は、平成四年、二年課程の看護学校を設立することを決定し、行政指導を受けて看護学校を事業の一つとして加えるべく定款を変更し、学校建設用地を購入したが、原告が看護学校の補助金を受けて付属看護学校を設立することはできなかったので、学校法人として設立することに方針を変更し、学校法人が看護学校を設立することに全面的に協力することを決定し、その後、建設用地及び約四億円の寄付を決定する等したこと、被告昭磨、被告わぐり及び被告安部は、外約一〇数名とともに、同日午前一一時三五分ころから午後零時四〇分ころまでの間、中野サンプラザ前広場において、「解雇撤回」「職業病の責任をとれ」と記載されたゼッケンを着用し、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」等と記載された旗を立て、「闘う会」、「患者会」作成名義で、「中野総合病院理事会は話し合いに応じて職業病患者の解雇を撤回せよ!」との大見出しを付け、「中野総合病院に抗議を!!」との見出しの下に、中野総合病院の住所、電話番号のほか、理事長、病院長及び副病院長の自宅の住所、電話番号を記載する等したビラを配布したこと、時折ハンドスピーカーにより演説したこと、以上の事実を認めることができる。

右事実に基づいて考えると、原告は、学校法人嘉榮学園、中野看護専門学校と密接な関係にあり、中野サンプラザにおいて開催された看護学校の開設記念式典及び祝宴を実質的に支える役割を果たしたものということができるし、当日の来賓者も原告との関係から出席した者が少なくなかったことがうかがわれるが、中野看護専門学校を開設したのは原告とは別法人の学校法人嘉榮学園であり、開設記念式典及び祝宴の開催自体は、右学校法人の業務に属するものと解するのが相当である。したがって、被告昭磨、被告わぐり及び被告安部らの右各行為が原告の業務に支障を来したものと認めることはできず、原告の信用、名誉の毀損の問題は別として、原告の業務妨害を理由とする不法行為による損害賠償請求は理由がない。

22  請求の原因22の事実のうち、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部らが、平成六年五月二八日午後零時三〇分ころから午後二時二五分このまでの間、「くみあい保険薬局会館」付近にいたこと、被告わぐりがハンドスピーカーを使用したこと、被告昭磨において大久保通り路上においてハンドスピーカーを使用したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を合わせて考えれば、原告は、平成六年五月二八日(土曜日)、「くみあい保険薬局会館」において第四五回通常総代会を開催したこと(開始時刻、終了時刻は証拠上明らかでない。)、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部は、外約七一名とともに、同日午後零時三〇分ころから午後二時二五分ころまでの間、前記「くみあい保険薬局会館」付近の区立桃園川公園等において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し、同公園の植え込み部分に「勝利するぞ 中野総合病院の職業病闘争を闘う会」等と記載された旗を立てたこと、被告わぐりは、断続的に相当の時間にわたり、「くみあい保険薬局会館」に向けてハンドスピーカーを使用して宣伝活動を行い、さらには抗議文を読み上げたこと、被告昭磨は、同公園内で、集会を開いた際、相当の時間にわたり、ハンドスピーカーを使用して演説を行ったこと、被告昭磨、被告わぐりらは、外約七三名とともに、「くみあい保険薬局会館」と大久保通りを隔てた中野郵便局駐車場前でシュプレヒコールを行ったが、その際、被告昭磨がハンドスピーカーを使用して先唱したこと、以上の事実を認めることができる。

被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部らが右薬局会館に総代会出席のために入場しようとした理事、総代等を取り囲み、通行を妨害した事実を認めるに足りる証拠はない。また、被告昭磨、被告わぐりらは、外約七三名とともに、「くみあい保険薬局会館」と大久保通りを隔てた中野郵便局駐車場前で、シュプレヒコールを行ったが、その態様は、被告昭磨がハンドスピーカーを使用して先唱し、かつ、全体として約七五名の人数がシュプレヒコールを行ったというものであるから、全体として相当大きな叫び声となり、「くみあい保険薬局会館」から一〇メートル程度離れた場所であり、相当の交通量があるものと思われる大久保通りが介在しているとはいえ、「くみあい保険薬局会館」において原告の総代会に出席している役員、総代の耳に届き、議事の進行上ある程度支障となった可能性は少なくないが、当日の総代会の進行状況、議事の進行上の支障については原告は何ら主張立証せず、結局、右シュプレヒコール等が原告の総代会の議事の進行を妨げる程度に至っていたことについては証明が不十分であるといわざるを得ない。

さらに、右シュプレヒコール等が大久保通り及び「くみあい保険薬局会館」に隔てられた中野総合病院における原告の業務を妨げたことについては、これを認めるに足りる証拠はない。

しかしながら、右に述べたとおり、被告わぐり、被告昭磨は、ハンドスピーカーを使用して宣伝しているが、その場所は、中野総合病院の病棟からも数メートルの距離にあり、このような近い距離から被告わぐり、同昭磨がハンドスピーカーを使用して宣伝したことによって、中野総合病院の入院患者に不快な思いをさせたほか、その診療に当たる医師、看護婦が、おのずと右音声をフォローし、相当程度注意を奪われ、その業務遂行に支障を来したことを推認することができる。原告の業務が医療業務であるという特質を踏まえ、右事実に基づいて考えると、被告わぐり、同昭磨の右各行為は、社会通念上不相当であり、原告の業務遂行を一部妨げた違法な行為であるといわざるを得ない。2で述べたとおり、被告昭磨は、被告わぐりにおいてハンドスピーカーを使用して宣伝した実行行為と客観的に関連し共同して違法に損害を加えた共同行為者に当たり、かつ、自らもハンドスピーカーを使用して宣伝しているから、実行行為者である被告わぐりと不真正連帯債務としての不法行為による損害賠償責任を免れない。他方、被告昭磨の右行為が被告わぐりのための行為であるというだけでは、被告わぐりが被告昭磨によるハンドスピーカーの使用について客観的に関連し共同して違法に損害を加えた共同行為者に当たることを肯定するに足りないから、被告わぐりは、自らハンドスピーカーを使用して宣伝した行為についてのみ、被告昭磨と不真正連帯債務としての不法行為による損害賠償責任を負うものというべきである。

前記の業務妨害によって原告が受けた無形の損害は、被告わぐりにおいてハンドスピーカーを使用して宣伝した行為につき二〇万円をもって相当と解するから、被告昭磨及び被告わぐりは、結局二〇万円の損害賠償債務を不真正連帯債務として負うものというべきである。

被告山﨑及び被告安部が「くみあい保険薬局会館」付近にいたことは前記のとおりであるが、これらの事実だけでは、被告山﨑及び被告安部が、被告わぐりにおいてハンドスピーカーを使用して宣伝した実行行為と客観的に関連し共同して違法に損害を加えた共同行為者に当たると認めるに足りず、被告山﨑及び被告安部に対する原告の請求は理由がない。

23  請求の原因23の事実のうち、被告昭磨、同山﨑及び被告安部らが、平成六年七月四日午前八時五五分ころから午前一〇時三五分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し、同公園植込みに旗を立て、中野総合病院正面玄関付近において、患者らに「闘う会」及び「患者会」作成名義のビラを配布したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨、同山﨑及び被告安部は、外約一五名とともに、平成六年七月四日午前八時五五分ころから午前一〇時三五分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し、同公園植込みに「勝利するぞ 中野総合病院の職業病闘争を闘う会」等と記載された旗を六本立て、被告昭磨その他の者が中野総合病院前の路上、中野総合病院正面玄関付近及び区立桃園川公園側において、患者等に対し、「闘う会」及び「患者会」作成名義の「職業病患者が患者として働ける職場を!弱者と共に生きる社会を!!」との大見出しを付けたビラを患者らに配布したこと、その後同公園内で集会を開いて解散したこと、以上の事実を認めることができる。

しかしながら、右のゼッケンの着用、旗の掲示、ビラの配布及び同公園内での集会によって原告の業務が妨げられたことについては、これを認めるに足りる証拠がないから、原告の右事実を理由とする不法行為による損害賠償請求は理由がない。

24  請求の原因24の事実のうち、被告昭磨、被告わぐり及び被告安部らが、平成六年九月二一日午前八時五〇分ころから午前一〇時五〇分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し、同公園植込みに旗を立て、中野総合病院正面玄関付近において、患者らに「闘う会」及び「患者会」作成名義のビラを配布したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨、被告わぐり及び被告安部は、外約一九名とともに、平成六年九月二一日午前八時五〇分ころから午前一〇時五〇分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し(被告昭磨、被告わぐり及び被告安部はいずれもゼッケンを着用した。)、同公園植込みに「勝利するぞ 中野総合病院の職業病闘争を闘う会」等と記載された旗を六本立て、被告わぐりその他の者が中野総合病院前の路上の、中野総合病院正面玄関付近及び区立桃園川公園側において、患者等に対し、「闘う会」及び「患者会」作成名義の「過労死増加傾向。そして、オフィス内複合汚染によるシックビル症候群等が急増。」との大見出しを付けたビラを患者らに配布したこと、その後同公園内で集会を開いて解散したこと、以上の事実を認めることができる。

しかしながら、右のゼッケンの着用、旗の掲示、ビラの配布及び同公園内での集会によって原告の業務が妨げられたことについては、これを認めるに足りる証拠がないから、原告の右事実を理由とする不法行為による損害賠償請求は理由がない。

25  請求の原因25の事実のうち、被告昭磨、被告わぐり及び同山﨑らが、平成六年一一月二日午前八時四〇分ころから午前一〇時四〇分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し、同公園植込みに旗を立て、中野総合病院正面玄関付近において、ビラを患者らに配布したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨、被告わぐり及び同山﨑は、外約一二名とともに、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し(被告昭磨、被告わぐり及び同山﨑はいずれもゼッケンを着用した。)、同公園植込みに「勝利するぞ 中野総合病院の職業病闘争を闘う会」等と記載された旗を立て、被告わぐりらが中野総合病院前の路上の中野総合病院正面玄関付近において、患者等に対して、「闘う会」作成名義の「弾圧はねのけ労働者の闘いは進む」との大見出しを付けたビラを患者らに配布したこと、その後同公園内で集会を開いて解散したこと、以上の事実を認めることができる。

しかしながら、右のゼッケンの着用、旗の掲示、ビラの配布及び同公園内での集会によって原告の業務が妨げられたことについては、これを認めるに足りる証拠がないから、原告の右事実を理由とする不法行為による損害賠償請求は理由がない。

26  請求の原因26の事実のうち、被告昭磨、被告わぐり及び同山﨑らが、平成六年一一月一八日午後八時二〇分ころ、中野総合病院近くの大久保通り路上において、ゼッケンを着用し、旗を立てていたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告わぐりは、集会・集団示威運動許可申請をし、平成六年一一月一八日午後八時から午後八時四〇分までの間に集団示威運動を行うことにつき東京都公安委員会の許可を受けたこと、そこで、被告昭磨、被告わぐり及び同山﨑は、外約六七名とともに、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」と記載されたゼッケンを着用し、平成六年一一月一八日午後八時中野商工会館を出発し、午後八時二〇分ころ、大久保通りの中野総合病院近くの地点(この地点は、証拠上必ずしも明確ではないが、中野総合病院から約二五ないし三〇メートルの地点と推認できる。)に到着したこと、被告わぐりは街宣車に乗り、拡声器で宣伝を行い、他にハンドスピーカーを使用して宣伝を行っていた者がいたこと、被告昭磨、被告わぐり及び同山﨑らは、同地点でシュプレヒコールを行い、午後八時二五分ころ同所を出発して中野保健所方向に向かい、午後八時三五分ころ中野郵便局横の公園に着き、間もなくして解散したこと、以上の事実を認めることができる。

午後八時二〇分ころに被告わぐりが街宣車中から拡声器で宣伝を行い、他の者がハンドスピーカーを使用して宣伝を行い、約七〇名近くの者がシュプレヒコールを行ったのであるから、大久保通り上であるとはいえ、その音声は相当離れた場所まで届いたものと推測できるが、これらによって原告の業務が妨害されたことについては、これを認めるに足りる証拠がない。よって、原告の右事実を理由とする不法行為による損害賠償請求は理由がない。

27  請求の原因27の事実のうち、被告昭磨及び被告わぐりらが、平成六年一二月二二日午前九時ころから午前一一時ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し、同公園植込みに旗を立て、中野総合病院正面玄関付近において、患者らに「闘う会」及び「患者会」作成名義のビラを配布したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨及び被告わぐりは、外約一八名とともに、平成六年一二月二二日午前九時ころから午前一一時ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し、同公園植込みに「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」等と記載された旗を六本立て、被告わぐりその他の者が中野総合病院前の路上の、中野総合病院正面玄関付近及び区立桃園川公園側において、患者等に対し、「闘う会」及び「患者会」作成名義の「過労死・労災職業病を生み出さない労働条件・職場を作るのが大事だ」との大見出しを付けたビラを患者らに配布したこと、その後同公園内で集会を開いて解散したこと、以上の事実を認めることができる。

しかしながら、右のゼッケンの着用、旗の掲示、ビラの配布及び同公園内での集会によって原告の業務が妨げられたことについては、これを認めるに足りる証拠がないから、原告の右事実を理由とする不法行為による損害賠償請求は理由がない。

28  請求の原因28の事実のうち、被告昭磨及び被告わぐりらが、平成七年二月二八日午前九時ころから午前一一時ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し、同公園植込みに旗を立て、中野総合病院正面玄関付近においてビラを患者らに配布したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨及び被告わぐりらは、外約一六名とともに、平成七年二月二八日午前九時ころから午前一一時ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」、「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」と記載されたゼッケンを着用し、同公園植込みに「中野総合病院の職業病闘争を闘う会」等と記載された旗を六本立て、被告わぐりその他の者が中野総合病院前の路上の、中野総合病院正面玄関付近及び区立桃園川公園側において、患者等に対し、「闘う会」及び「患者会」作成名義の「労働省の「過労死認定基準」見直しは不十分」の見出しを付けたビラ並びに「闘う会」作成名義の「執行文付与裁判判決延期」、「裁判所の争議禁圧姿勢」の見出しを付けたビラを配布したこと、その後同公園内で集会を開いて解散したこと、以上の事実を認めることができる。

しかしながら、右のゼッケンの着用、旗の掲示、ビラの配布及び同公園内での集会によって原告の業務が妨げられたことについては、これを認めるに足りる証拠がないから、原告の右事実を理由とする不法行為による損害賠償請求は理由がない。

29  請求の原因29の事実のうち、被告昭磨及び被告わぐりらが、平成七年三月一四日午前九時ころから午前一一時ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、同公園植込みに旗を立て、中野総合病院正面玄関付近において、患者らに「闘う会」及び「患者会」作成名義のビラを配布したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨及び被告わぐりは、外約一九名とともに、平成七年三月一四日午前九時ころから午前一一時ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、同公園植込みに「勝利するぞ中野総合病院の職業病闘争を闘う会」等と記載された旗を六本立て、被告昭磨その他の者が中野総合病院前の路上の、中野総合病院正面玄関付近及び区立桃園川公園側において、患者等に対し、「闘う会」及び「患者会」作成名義の「東京地方裁判所の執行文付与=四六〇万円支払い命令の不当判決を糾弾する」との大見出しを付けたビラを配布したこと、被告昭磨及び被告わぐりらは、誰もゼッケンを着用しなかったこと、以上の事実を認めることができる。

しかしながら、右の旗の掲示及びビラの配布によって原告の業務が妨げられたことについては、これを認めるに足りる証拠がないから、原告の右事実を理由とする不法行為による損害賠償請求は理由がない。

30  請求の原因30の事実のうち、被告昭磨及び被告わぐりらが、平成七年四月二二日午前八時五五分ころから午前一〇時五五分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「患者会」と記載されたゼッケンを着用し、同公園植込みに旗を立て、中野総合病院正面玄関付近において、患者らに「闘う会」及び「患者会」作成名義のビラを配布したことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、被告昭磨及び被告わぐりは、外約二一名とともに、平成七年四月二二日午前八時五五分ころから午前一〇時五五分ころまでの間、中野総合病院前区立桃園川公園入口付近において、「中野総合病院患者会」と記載されたゼッケンを着用し、同公園植込みに「勝利するぞ 中野総合病院の職業病闘争を闘う会」等と記載された旗を五本立て、一部の者が中野総合病院前の路上の、中野総合病院正面玄関付近及び区立桃園川公園側において、患者等に対し、「闘う会」及び「患者会」作成名義の「金のとりたてで争議を圧殺しようとする不当判決をはねのけて闘います」との大見出しを付けたビラを配布したこと、以上の事実を認めることができる。

しかしながら、右のゼッケンの着用、旗の掲示及びビラの配布によって原告の業務が妨げられたことについては、これを認めるに足りる証拠がないから、原告の右事実を理由とする不法行為による損害賠償請求は理由がない。

31  請求の原因31の事実のうち、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部らが、平成七年五月二六日午後零時二五分ころから午後二時二五分ころまでの間、中野総合病院付近路上及び「くみあい保険薬局会館」付近において、「中野総合病院患者会」と記載されたゼッケンを着用し、区立桃園川公園植込みに「闘う会」と記載された旗を立て、被告わぐりが、ハンドスピーカーを使用して総代会開催中の右会館に向けて発言し、右会館に立ち入ろうとしたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、(証拠略)及び弁論の全趣旨を併せて考えれば、原告は、平成七年五月二六日(金曜日)、「くみあい保険薬局会館」において第四六回通常総代会を開催したこと(開始時刻、終了時刻は証拠上明らかでない。)、被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部は、外約四七名とともに、同日午後零時二五分ころから午後二時二五分ころまでの間、中野総合病院付近路上及び「くみあい保険薬局会館」付近において、「中野総合病院患者会」と記載されたゼッケンを着用し(被告昭磨、被告わぐり、被告山﨑及び被告安部はいずれもゼッケンを着用した。)、区立桃園川公園植込みに「争議禁圧攻撃としての仮処分間接強制を許さないぞ 理事会は話し合いに応じ、直ちに争議を解決せよ」等と記載した横断幕を掲示し、「勝利するぞ中野総合病院の職業病闘争を闘う会」等と記載された旗を五本立て、被告わぐりが、断続的に相当の時間にわたり、ハンドスピーカーを使用して総代会開催中の右会館に向けて発言し、右会館に立ち入ろうとし、抗議文を読み上げたこと、被告昭磨は、同公園内で集会を開いた際、相当の時間にわたり、ハンドスピーカーを使用して演説を行ったこと、被告昭磨、被告わぐりらは、外約四七名とともに、「くみあい保険薬局会館」と大久保通りを隔てた中野郵便局駐車場前でシュプレヒコールを行ったが、その際、被告昭磨がハンドスピーカーを使用して先唱したこと、以上の事実を認めることができる。

被告昭磨、被告わぐりらは、外約四七名とともに、「くみあい保険薬局会館」と大久保通りを隔てた中野郵便局駐車場前で、シュプレヒコールを行ったが、その態様は、被告昭磨がハンドスピーカーを使用して先唱し、かつ、全体として五〇名近い人数がシュプレヒコールを行ったというものであるから、全体として相当大きな叫び声となり、「くみあい保険薬局会館」から一〇メートル程度離れた場所であり、相当の交通量があるものと思われる大久保通りが介在しているとはいえ、「くみあい保険薬局会館」において原告の総代会に出席している役員、総代の耳に届き、議事の進行上ある程度支障となった可能性は少なくないが、当日の総代会の進行状況、議事の進行上の支障については原告は何ら主張立証せず、結局、右シュプレヒコール等が原告の総代会の議事の進行を妨げる程度に至っていたことについては証明が不十分であるといわざるを得ない。さらに、右シュプレヒコール等が大久保通り及び「くみあい保険薬局会館」に隔てられた中野総合病院における原告の業務を妨げたことについては、これを認めるに足りる証拠はない。

しかしながら、前記のとおり、被告わぐり、被告昭磨は、ハンドスピーカーを使用して宣伝しているが、その場所は、中野総合病院の病棟からも数メートルの距離にあり、このような近い距離から被告わぐり、同昭磨がハンドスピーカーを使用して宣伝したことによって、中野総合病院の患者に不快な思いをさせたほか、その診療に当たる医師、看護婦が、おのずと右音声をフォローし、相当程度注意を奪われ、その業務遂行に支障を来したことを推認することができる。原告の業務が医療業務であるという特質を踏まえ、右事実に基づいて考えると、被告わぐり、同昭磨の右各行為は、社会通念上不相当であり、原告の業務遂行を一部妨げた違法な行為であるといわざるを得ない。2で述べたとおり、被告昭磨は、被告わぐりにおいてハンドスピーカーを使用して宣伝した実行行為と客観的に関連する行為を行い、共同して違法に損害を加えた共同行為者に当たり、かつ、自らもハンドスピーカーを使用して宣伝しているから、実行行為者である被告わぐりと不真正連帯債務としての不法行為による損害賠償責任を免れない。他方、被告昭磨の右行為が被告わぐりのための行為であるというだけでは、被告わぐりが被告昭磨によるハンドスピーカーの使用について客観的に関連し共同して違法に損害を加えた共同行為者に当たることを肯定するに足りないから、被告わぐりは、自らハンドスピーカーを使用して宣伝した行為についてのみ、被告昭磨と不真正連帯債務としての不法行為による損害賠償責任を負うものというべきである。

前記の業務妨害によって原告が受けた無形の損害は、被告わぐりにおいてハンドスピーカーを使用して宣伝した行為につき二〇万円をもって相当と解するから、被告昭磨及び被告わぐりは、結局二〇万円の損害賠償債務を不真正連帯責務として負うものというべきである。

被告山﨑及び被告安部が「くみあい保険薬局会館」付近にいたことは前記のとおりであるが、これらの事実だけでは、被告山﨑及び被告安部が、被告わぐりにおいてハンドスピーカーを使用して宣伝した実行行為と客観的に関連し共同して違法に損害を加えた共同行為者に当たると認めるに足りず、被告山﨑及び被告安部に対する原告の請求は理由がない。

五  被告昭磨外三名の抗弁1(表現の自由の行使であることを理由とする正当行為性)について

被告昭磨外三名は、原告には、職業病による損害の回復をする義務があり、被告わぐり及び「闘う会」が中野総合病院の前に赴いて宣伝活動を行うことは、表現の自由の範囲内の行動であると主張する。

街頭において、ビラを配布し、あるいはスピーカーを用いて自己の意見を宣伝する街頭宣伝活動も、表現の自由の行使の一態様であるが、その内容が他人の権利、法的利益を違法に侵害するものであってはならないという、表現の自由に内在する制約を受けることは、既に述べたとおりである。被告昭磨外三名らは、前記のとおり、中野総合病院付近において、ハンドスピーカーを使用して宣伝活動を行い、あるいはシュプレヒコールを行ったが、これにより、中野総合病院において診療に当たる医師、看護婦その他の職員の業務遂行に支障を来したほか、平穏、静謐を必要とする患者の安静を害し、不快感を与えて医療業務の遂行に支障を来したのであり、このような行為は、表現の自由に内在する制約を逸脱した、原告の業務の遂行を妨害する違法な行為であり、不法行為による損害賠償責任を免れないというほかはない。

被告昭磨外三名の抗弁1は理由がない。

六  被告昭磨外三名の抗弁2(過失相殺)について

被告昭磨外三名は、原告には、いったんは被告わぐり及び久保下秀子に対して職業病を発症させた責任を認め、その被害回復を約束しておきながら、池澤康郎医師の虚偽の診断を根拠に、職業病の責任回避を図り、長年にわたり解決のための交渉を拒絶し続けた違法があり、右の事情は原告の損害額の算定に当たってしんしゃくされるべきである旨主張する。

被告秋月昭麿(ママ)本人尋問の結果によれば、被告昭磨外三名らが解決の内容として求めているのは、被告わぐりに対する懲戒解雇の撤回であることが認められるから、このことに基づいて考えると、被告昭磨外三名の右主張を肯定するには、被告わぐりが業務上負傷し、あるいは疾病にかかったものであり、原告が被告わぐりに対して災害補償の責任を負うに至ったこと、又は原告に被告わぐりに対する安全配慮義務違反があり、債務不履行を理由とする損害賠償責任を負うに至ったこと、被告わぐりに対する懲戒解雇当時原告になおその責任が存続しており、それ故に、通常勤務を行わないこと等を理由に行った懲戒解雇は無効であったこと、以上を要するものというべきであるが、被告わぐりに対する懲戒解雇当時原告になおその責任が存続しており、それ故に、通常勤務を行わないこと等を理由に行った懲戒解雇が無効であったとはいえないことは、前記のとおり、原告と被告わぐりとの間の雇用関係の有無をめぐる訴訟についての東京地方裁判所の判決、その控訴審の東京高等裁判所の判決及びその上告審の最高裁判所の判決によって決着済みである。被告昭磨外三名も、この事態を前提にしつつ、真実は訴訟によって確定したこととは異なるとして、原告が任意に懲戒解雇の撤回を行うことを求めて、前記各行為を行っているものというべきである。

右の点に照らして考えると、被告昭磨外三名の前記各行為により原告の受けた損害額の算定に当たり、原告が被告わぐりに対する懲戒解雇の撤回要求に応じないことをしんしゃくすることは、相当ではないというべきである。

被告昭磨外三名の抗弁2も理由がない。

七  被告昭磨外三名の抗弁3(弁済)について

1  被告昭磨外三名は、抗弁3(一)において、原告が、請求の原因5ないし11の被告昭磨及び被告わぐりの行為が仮処分に違反した行為であるとして執行文付与の訴えを提起し、認容判決により、右各事実ごとに金二〇万円の支払を命ずる執行文の付与された債務名義を有しており、これに基づいて動産執行を申し立て、相当額の金員の支払を受けていることを理由に、原告の右各事実が不法行為に当たることを理由とする損害賠償請求は、実質的に二重請求であり、棄却を免れないと主張する。

右主張は、支払を受けた金額を明示していない点において抗弁として既に失当であるが、この点はひとまずおき、抗弁3(二)に通ずる問題点について述べる。仮処分における被保全権利は、債務者において訴訟に関係なく任意にその義務を履行し、又はその存在が本案訴訟において終局的に確定され、これに基づく履行が完了して始めて法律上実現されたものというべきであり、いわゆる満足的仮処分の執行自体によって被保全権利が実現されたと同様の状態が事実上達成されているとしても、それはあくまでも仮のものに過ぎないのであるから、この仮の履行状態の実現がされていることが本案訴訟や別の訴訟においてしんしゃくされるべき筋合いのものではない。本件でも、仮処分の執行がされたにとどまるなら、本件訴訟においてその事実を抗弁としてしんしゃくする余地はないことになる。ここで問題となるのは、原告が被告昭磨及び被告わぐりを被告として提起した土地建物立入禁止等請求訴訟(平成五年(ワ)第六六八一号)について、東京地方裁判所が平成六年八月三〇日に言い渡した判決が、右仮処分の本案訴訟に当たるか否かである。

右判決は、前記のとおり、被告昭磨及び被告わぐりに対し、自ら又は第三者をして、中野総合病院の敷地及び建物に立ち入り、又は立ち入ろうとすること、右敷地、建物及びその付近(敷地の境界線から二五メートル以内の区域)において、「解雇撤回」、「職業病の責任をとれ」等と発言したり、若しくはハンドスピーカーを使用する等して連呼すること、又は「解雇を撤回せよ」、「職業病発生の責任をとれ」その他原告の経営する中野総合病院に関する記事を記載したビラ配り行為を行うこと、その他中野総合病院における医療業務及びこれに関する一切の業務を妨害すること、以上の行為をしてはならない旨命ずるものである。しかし、この判決は、口頭弁論終結の日である平成六年八月三〇日の時点において原告の差止請求に理由があると判断したものであり、既判力はこの時点以降の差止命令の部分に生じるものであって、これより前の時点である前記仮処分決定の差止命令に違反した行為がされた時点において原告に差止請求権があったことを公権的に確定するものではないから、前記仮処分の本案判決となるものではない。そうすると、このような場合にはどのような訴訟が本案訴訟となるのかが問題となり、このような場合には、過去の時点における確認という問題点はあるが、違反行為がされた時点で原告に差止請求権があったことを確認する訴訟が本案判決に当たるものと解するのが相当である。

本件訴訟は、被告昭磨及び被告わぐりが請求の原因5ないし11の事実により不法行為による損害賠償責任を負うか否かを判断事項とするものであり、仮処分決定に違反したとされる行為と同一の行為をとらえてそれが不法行為に当たるか否かを判断するものではあるが、前記仮処分決定違反による間接強制の実施は、これが暫定的な状態を形成したに過ぎないことからすれば、本件訴訟において弁済又はこれに準ずる抗弁として取り上げるべきものとはいえない。

2  被告昭磨外三名は、原告が、請求の原因12ないし20及び同22ないし24の被告昭磨及び被告わぐりの行為が仮処分に違反した行為であるとして執行文付与の訴えを提起し、認容判決により、右各事実ごとに金二〇万円の支払を命ずる執行文の付与された債務名義を得たこと、そこで、被告昭磨及び被告わぐりは、原告に対し、合計一二〇万円を支払ったこと、以上の事実を理由に、損害額が支払額と同額のときは損害賠償の請求をすることはできないと主張する。請求の原因13及び22の事実について被告昭磨及び被告わぐりに不法行為による損害賠償責任があることは、既に述べたとおりである。

しかし、右のとおり、被告昭磨及び被告わぐりが原告に対し合計一二〇万円を払ったことは、仮処分における被保全権利を前提に、いわゆる満足的仮処分の執行自体によって被保全権利が実現されたと同様の状態が事実上達成されているにすぎないものと解するのが相当であり、いまだ本案訴訟において確定されているものではない以上、本件訴訟において不法行為による損害賠償請求の当否について判断する必要があることは1で述べたことと同様である。また、東京地方裁判所が平成六年八月三〇日に言い渡した判決が前記仮処分の本案判決となるものではないことも、1で述べたことと同様である。

3  よって、被告昭磨外三名の抗弁3の主張はすべて理由がない。

第六乙事件についての判断

一  請求の原因1の事実のうち、被告井上が東京弁護士会所属の弁護士であり、本件答弁書を作成、提出したことは当事者間に争いがなく、被告井上が、甲事件の本件口頭弁論期日において、被告昭磨及び被告わぐりの訴訟代理人として、本件答弁書を陳述したことは、当裁判所に顕著である。

本件訴訟記録によれば、被告井上が平成五年二月三日の甲事件の第二回口頭弁論期日において、被告昭磨及び被告わぐりの訴訟代理人として、「原告の現執行部が内紛を繰返し、見るに堪えない陰惨な手段により旧執行部を放逐して最近乗っ取りに成功した成り上がりグループであるため、旧執行部が右両団体と比較的友好的な関係を保ってきたことを黙殺しようとしている姿勢が現れた」、「右両名(田中修吾、齋藤政隆)も前記内紛の中で前記乗っ取りグループにより失脚させられ前記病院(中野総合病院)外へ放逐された」、「原告の現執行部である乗っ取りグループは、目下組合員の支持を失いつつあり、それにもかかわらず、失脚を怖れて権力の座にしがみつこうとし、そのために被告等及び闘う会を事実に反して原告の敵対者として仮想させることにより、これと闘うポーズを装うことで唯一乗っ取りグループの存在意義をアピールし、その意味で紛争を泥沼化しようとすることにある。」等の記載のある本件答弁書を陳述したことを認めることができる。

二  民事訴訟は、当事者間に権利義務の有無について争いがある場合に、当事者が裁判所にその判断を求めるための手続であり、それぞれ、自己が認識している事実に基づき、正しいと判断したところに基づいて訴えを提起してその根拠を主張立証し、あるいはその反論、立証活動を行うことを保障する制度であるから、仮に、攻撃防御方法を提出したことによって相手方やその代理人の名誉を侵害することがあったとしても、当該攻撃防御方法の内容が争いのある権利義務の主張と関連性、必要性があり、相当と認められる根拠に基づき、相当と認められる方法でこれを行う限り、正当な弁論活動として許容されるが、当該攻撃防御方法の内容が争いのある権利義務の主張と関連性、必要性がない場合、相当と認められる根拠に基づかない場合又はその主張の表現、態様等が著しく不相当な場合には、当該攻撃防御方法を提出した当事者は、相手方等の名誉を違法に侵害したことによる不法行為による損害賠償責任を負うものと解するのが相当である。もっとも、右の場合であっても、当該行為が公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であることが証明されたときに当たるのであれば、違法性を欠いて不法行為責任を生じないこととなる余地を否定するものではないが、民事訴訟における攻撃防御方法の性質からすると、実際上右の要件を充足し得るのは、民衆訴訟の場合その他の限られた場合だけとなろう。

三  そこで、本件答弁書の請求の原因1掲記の主張について検討すると、右主張は、甲事件における濫訴の主張、被告昭磨及び被告わぐりの行為が、原告の責任回避に対しその履行を求める表現の自由の範囲内の行為であり、正当行為であるとの主張、過失相殺の主張を根拠付ける主張としてされたものである。

1  まず、濫訴の主張は、原告の現執行部が延命策として被告昭磨及び被告わぐりを仮想敵対者として位置付けて甲事件を提起したという内容を含むものであるから、右濫訴の主張が法的に正当なものかどうかはさておき、本件答弁書の請求の原因1掲記の主張は、右と同旨の限度では、濫訴の主張との間に関連性があるということができるが、本件答弁書の請求の原因1掲記の主張は、「現執行部が、見るに堪えない陰惨な手段により旧執行部を放逐した。」、「現執行部は、最近乗取(ママ)りに成功した成り上がりグループである。」という表現をはじめとして、いたずらに誇張された、相手方をおとしめる表現が使用されているほか、全体の趣旨としてこれを見ても、原告が陰惨な手段を使って乗取(ママ)りに成功した成り上がりグループによって運営されていて、現在の運営が不相当、不安定であることを強く印象付け、執行部、成り上がりグループを構成する者だけでなく、原告自体の評価を低下させる意味を持たざるを得ないものであるから、本件答弁書の請求の原因1掲記の主張は、そのように表現する必要性がないのに、あえてそのような表現を使用したもので、その表現、態様も著しく不相当な場合に当たるというべきである。

2  次に、被告昭磨及び被告わぐりの行為が、原告の責任回避に対しその履行を求める表現の自由の範囲内の行為であり、正当行為であるとの主張、過失相殺の主張との関係について検討すると、被告昭磨外三名のこれらの主張は、原告には、いったんは被告わぐり及び久保下秀子に対して職業病を発症させた責任を認め、その被害回復を約束しておきながら、池澤康郎医師の虚偽の診断を根拠に、職業病の責任回避を図り、長年にわたり解決のための交渉を拒絶し続けた違法があり、被告昭磨及び被告わぐりは右違法を是正させるために正当な行為を行ってきたに過ぎないことを核心とするものであるから、要は、原告に右災害補償の責任又は安全配慮義務違反による損害賠償責任があること、それにもかかわらずその責任の履行がされてこなかったこと、そのために被告昭磨及び被告わぐりはその責任の履行を求めてきたものであることを主張立証すべきなのであり、この観点からすると、本件答弁書の請求の原因1掲記の主張は、余計な主張であって、このような主張をする必要はなく、また、本件答弁書の主張の表現、態様も著しく不相当な場合に当たることは1で述べたとおりである。

3  本件答弁書は、当裁判所に提出され、陳述されたことにより、本件訴訟記録に編綴され、何人もその閲覧を請求することができる状態に置かれたのであるから、原告の社会的信用が損なわれたことを否定することはではない。

4  抗弁1について

本件答弁書の請求の原因1掲記の主張が、専ら公益を図る目的に出た場合に当たることについては、これを認めるに足りる証拠がない。したがって、抗弁1は既にこの点において理由がない。

5  抗弁2について

弁護士が訴訟代理人として法廷で攻撃防御方法の提出を内容とする弁論活動を行った場合における当該行為の適法性については、これを当該弁論活動が正当であるか否かの観点と、弁護士としての当該業務行為が正当であるか否かの観点との双方から検討することができ、適法性の判断基準は概ね重なるものの、弁護士が依頼者その他の関係者から事情を聴取し、資料の提供を受ける等して事実関係を調査した上で訴訟代理人として弁論活動を行う点において、当事者が自ら行う弁論活動の場合と完全に一致するわけではないことからすると、事実関係の右調査の過程で依頼者から受けた説明内容が虚偽であったが、それが虚偽であることは容易に看破し難い事情があった等の場合には、正当な弁論活動に当たらない場合であっても、弁護士としての正当な業務行為に当たるとして違法性が阻却されるものと解することができる。

そこで、弁護士としての正当な業務行為の主張を一応抗弁として整理したが、本件答弁書の請求の原因1掲記の主張は、右1及び2において述べたように、その根拠の有無によって適法性が左右されるものではなく、そのように表現する必要性がないのに、あえてそのような表現を使用したものであるか、あるいは被告昭麿(ママ)及び被告わぐりの行為の正当性を裏付ける主張として必要であったといえないのに主張したものであり、かつ、その表現、態様も著しく不相当な場合に当たるが故に違法たるを免れないのであるから、専門家である弁護士が判断してそのような表現を使用し、主張した以上、その自己責任の範囲内の問題であり、正当業務行為であるとの主張は抗弁としての意味を持たないといわざるを得ない。

抗弁2は理由がない。

6  よって、本件答弁書の請求の原因1掲記の主張は、社会的に許容される範囲を逸脱したもので、違法である。

四1  (証拠略)によれば、本件答弁書の主張は、被告昭磨及び被告わぐりの事実についての認識に基づくものであり、法律構成は別として、甲事件における濫訴の主張、被告昭磨及び被告わぐりの行為が、原告の責任不履行に対しその履行を求める表現の自由の範囲内の行為であるとの主張をすることは、被告昭磨及び被告わぐりの意思に基づくものであることが認められ、この事実に弁論の全趣旨を併せて考えると、本件答弁書の請求の原因1掲記の主張をすることも、被告昭磨及び被告わぐりの意思に基づくものであると認めることができ、この認定に反する証拠はない。そうすると、被告昭磨及び被告わぐりも、被告井上と不真正連帯債務としての不法行為による損害賠償責任を免れない。

2  原告は、本件答弁書の請求の原因1掲記の主張の陳述によって名誉を毀損され、無形の損害を受けたものというべきである。右損害は、三〇万円と認めるのが相当である。

第七丙事件についての判断

乙事件についての判断は第六で述べたとおりであり、乙事件は、正当な訴訟追行行為に対し、これが不法行為に当たるとしてした何ら理由のない不当な訴訟であるということはできないから、その余の点について判断するまでもなく、被告井上、被告昭磨及び被告わぐりの請求は、いずれも理由がない。

第八結論

一  甲事件、丁事件及び戊事件について

1  被告昭磨及び被告わぐりに対する請求

(一) 第三、(甲事件、丁事件及び戊事件)一、1から4までの請求原因事実に基づく請求は理由があり(判断は第五、四、1から4までに述べた。)、被告昭磨及び被告わぐりは、原告に対し、連帯して不法行為による損害金合計金八〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成七年四月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。

(二) 第三、(甲事件、丁事件及び戊事件)一、27から30までの請求原因事実に基づく請求は理由がない(判断は第五、四、27から30までに述べた。)から、棄却する。

2  被告昭磨外三名に対する請求

(一) 第三、(甲事件、丁事件及び戊事件)一、5から10までの請求原因事実に基づく請求は理由があり(判断は第五、四、5から10までに述べた。)、被告昭磨外三名は、原告に対し、連帯して不法行為による損害金合計金一二〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成六年一月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。

(二) 第三、(甲事件、丁事件及び戊事件)一、11の請求原因事実に基づく請求は、被告昭磨、被告わぐり及び被告安部に対する請求については理由があり(判断は第五、四、11に述べた。)、被告昭磨、被告わぐり及び被告安部は、原告に対し、連帯して不法行為による損害金二〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成六年一月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負うが、被告山﨑に対する請求は理由がない(判断は第五、四、11に述べた。)から棄却する。

(三) 第三、(甲事件、丁事件及び戊事件)一、13、22及び31の請求原因事実に基づく請求は、被告昭磨及び被告わぐりに対する請求については理由があり(判断は第五、四、13、22及び31に述べた。)、被告昭磨及び被告わぐりは、原告に対し、連帯して不法行為による損害金合計金六〇万円並びに内金二〇万円に対する不法行為の後である平成六年一月一三日から、及び内金四〇万円に対する不法行為の日である平成七年五月二六日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負うが、被告山﨑及び被告安部に対する請求は理由がない(判断は第五、四、13及び31に述べた。)から棄却する。

(四) 第三、(甲事件、丁事件及び戊事件)一、12、14、15及び19の請求原因事実に基づく請求は理由がない(判断は第五、四、12、14、15及び19に述べた。)から、棄却する。

3  被告昭磨、被告わぐり及び被告山﨑に対する請求

第三、(甲事件、丁事件及び戊事件)一、16、25及び26の請求原因事実に基づく請求は理由がない(判断は第五、四、16、25及び26に述べた。)から、棄却する。

4  被告昭磨、被告わぐり及び被告安部に対する請求

第三、(甲事件、丁事件及び戊事件)一、17、18、20、21及び24の請求原因事実に基づく請求は理由がない(判断は第五、四、17、18、20、21及び24に述べた。)から、棄却する。

5  被告昭磨、被告山﨑及び被告安部に対する請求

第三、(甲事件、丁事件及び戊事件)一、23の請求原因事実に基づく請求は理由がない(判断は第五、四、23に述べた。)から、棄却する。

二  乙事件について

第三、(乙事件)一の請求原因事実に基づく請求は理由があり(判断は第六に述べた。)、被告昭磨、被告わぐり及び被告井上は、原告に対し、連帯して不法行為による損害金三〇万円及びこれに対する不法行為の日である平成五年二月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務を負うが、原告のその余の請求は理由がない(判断は第六に述べた。)から棄却する。

三  丙事件について

第三、(丙事件)一の請求原因事実に基づく請求は理由がない(判断は第七に述べた。)から棄却する。

四  以上の次第であるから、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条、六五条一項ただし書を適用し、仮執行宣言の申立てについては、相当ではないからこれを却下して、主文のとおり判決する。

(裁判官 髙世三郎)

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